性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

樹木希林について

樹木希林について、実はそれほどのことは知らない。彼女を「名優」として本格的に意識した最初の作品は、長嶋有の小説が原作の映画『サイドカーに犬』だ。 

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どういうシーンだったか詳しくは覚えていないが、確か樹木希林がくしゃみか何かをする場面があって、そのタイミングが絶妙すぎて爆笑したのを覚えている。映画『サイドカーに犬』といえば、もうこのシーンの印象しかない。

本格的に「樹木希林やべえ」と思い始めたのは、是枝裕和の『歩いても 歩いても』だ。映画を観た人ならわかると思うが、阿部寛の母を演じた樹木希林がぽつぽつと“本音”を語るシーンは下手なホラー映画より怖い。

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とはいえこのシーンの樹木希林は、別にものすごい形相を浮かべているわけでもないし、セリフに力が込められているわけでもない。どちらかというと淡々としたセリフ運びだ。しかしここには、ずっと長い間、ある“わだかまり”を抱えつつも表面上は平静に生きてきた母親が内に秘める恐ろしい情念が濃縮200%で表現されている。

以前Netflixで『男はつらいよ フーテンの寅』を観ていたら、主人公の寅次郎が働く旅館の仲居役で妙に存在感のある若手女優が出ていた。この人、特に何か目立つことをやってるわけでもないのになんだか面白いな、誰なんだろうと思ってクレジットを見ると、悠木千帆という名前がある。これは樹木希林の旧芸名だ。この時点で彼女は27歳ぐらいなのだが、すでに唯一無二の存在感がある。

そんな、ほとんど畏怖すべき存在でありながら、樹木希林には「隣の家の女の子」ならぬ「隣の家のおばあちゃん」的な親しみやすさもある。『となりのトトロ』を初めて観たとき、北林谷栄が演じる老婆を見て「このばあちゃん、俺知ってるな」と思ったのだが、樹木が演じる老婆も自分にとってはまさしくそういう存在だった。樹木の演技には母親の慈愛も祖母のおおらかさも、そして母や祖母が持つ怖さ(それは男親の単に暴力を振るうとかそういうものとはまったく質の違った怖さ)も漂っていた。

彼女の死は、先日倒れて一時危篤状態に陥ったという報を受けたときになんとなく予感していた。そして実際に亡くなってしまった今、僕の胸に去来するのは2人の祖母を亡くしたときに経験したものと似た感情だ。なぜか、そうした個人的な思い出と、樹木が出演していた映画のワンシーンの記憶はどこかでつながっている。僕は樹木希林を舞台挨拶などでしか見たことがない。話したことはない。それでもどこかで、自分は彼女と何かを共有したような気がする。本人にそんなことを話したら「何言ってんの、あなたのことなんて知らないわよ」ときっと言われるんだろうけど。

SWITCH Vol.34 No.6 樹木希林といっしょ。

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