性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

アレンとドラン

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このマンガを知ったのは、ツイッターで「既婚出会い厨映画おじさん」という腐臭漂うパワーワードを目にしたことがきっかけです。ちなみに僕は未婚出会いなし映画おじさんです。以後お見知り置きを。

タイトルのアレンとドランというのはもちろんウディ・アレングザヴィエ・ドランから取っているはず。主人公は映画が好きで、遊べる本屋(要するにヴィレッジ・ヴァンガード)が好きな女子大生・林田。映画なんてイケメン動物園ものかディズニーぐらいしか観ない周囲の女の子たちに「立川で爆音フランソワ・オゾン特集上映が今日までなんだよ」と言ってしまう痛い人です。「どうせこいつらフランソワ・オゾンなんて知らんだろう」と知りつつわざわざ言ってしまうところにつらみがある。

自己評価が低く自分の女としての価値に思いを巡らせることもないであろう彼女はそのぶん隙も多く、SNSで知り合った映画好きのおっさんに酒を飲まされやられそうになります。そこで彼女を助けたのが、隣人のイケメン江戸川(林田は「エドガー」と呼ぶ)。アレンにもドランにも興味がなく、林田を「サブカル系(笑)」と切って捨てる江戸川ですが、「私から『好きなもの』を取ったら、こんなつまんない人いない。だから私、私が好きなものが好きな人じゃないとダメなんです。どうしていいか分からない」という林田に「こないだ…鼻で笑って悪かった」と謝る誠実さも持っています。

それにしても、林田の隙につけこむ映画好きおじさん(ウディ・アレンそっくり)の絶妙ないやらしさがすごいですね。僕にはこんな器用さ(?)はないけど、バーとかで知り合った若い女子が映画好きだとつい水木しげるのマンガの登場人物みたいに鼻息が荒くなってしまう自分を客観的に見せられてるようで、いたたまれない気持ちになりました。長く生きたぶん溜め込んだ知識で若い子相手にマウント取ろうとするのとか、本当にカッコ悪いですよね。反面教師にしなくては。

でも林田は単に自分の殻に閉じこもるだけでなくて、映画好きおじさんに「あなたは私だ。私の成れの果てだ。何にもない自分を一所懸命知識で埋めて、アレンとかドランとか言いたいだけの」と言ってのけるぐらいの自己分析能力を持ってます。その後の展開を見ると、彼女はこじらせてはいるけどサブカルの温室にこもらず成長していける人なんだとわかります。江戸川が彼女に惹かれていくとか、サブカル系(笑)な過去のある大学教授・平良も林田を狙うとか、まあこのへんはファンタジーですけど、そこはテンプレ展開として読み流せる感じ。肥大した自意識に苦しみつつなんとか他者と向き合おうとする林田を応援したくなりつつ、そこには「俺たちの地獄から巣立っていくんだね君は…」という寂しさ、うらやましさもあったり。

同じく主人公がサブカル好きな「モテキ」は「そうそう、わかる。わかるよ。痛いよね。でも気持ちいいよね」とマンガ読みながらかさぶた剥がしてるみたいな気持ちになりましたけど、「アレンとドラン」はちゃんとマキロンをかけてくれる感じで読後感がわりと爽やかなので、逆にそこが物足りないと思う人もいるかもしれません。けど、映画とかサブカルが好きでこじらせてる人なら一読の価値はある作品だと思いますよ。ちなみに単行本2巻の巻末に「映画祭を擬人化してみた」読み切りが収録されてるんですけど、これがまた絶妙で面白いです。読んでてニヤニヤしてしまいました。

今のところ映像化の話はない本作ですが、もし実写化するなら林田役は門脇麦とかどうですかね。

アレンとドラン(1) (KC KISS)

アレンとドラン(1) (KC KISS)

 
アレンとドラン(2) (KC KISS)

アレンとドラン(2) (KC KISS)