読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『レッドタートル ある島の物語』を観た

外国映画 日本映画 アニメ

f:id:q050351:20160922140250j:plain

red-turtle.jp

 「客が全然入ってない」と噂の『レッドタートル』、観てきました。

 スタジオジブリ作品ということで売ってますが、監督は外国人のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットだし、ジブリとフランスの映画会社ワイルドバンチが共同で製作しています。

 観ないうちから、「これは『ジブリ』という名前だけで観に行った奴らが『思ってたのと違う』とがっかりするタイプの映画だな」と思っていたのですが、たぶん予想通り。というか、そもそも観に来ている人たちの数も少ないのですが……。

 物語は、まず主人公の男が荒波に揉まれ海で遭難するところから始まります。男に名前はないし、セリフもない(全編にわたって、セリフらしいセリフは「Hey!」ぐらいかな)。なぜあんな小舟で海をさまよっていたのか、船乗りなのか、旅人なのか、何人なのか、それすらもわからない。「Hey!」って言うぐらいだから英語圏の人なのかなってことしかわかりません。そしてこの物語の時代背景も全然わかりません。

 男は無人島に漂着し、そこから脱出しようとしますがどうしてもうまくいきません。いかだを作って海に出ても、何ものかによって妨害されます。そして彼はある日、赤いウミガメと出会います。男はこの海の生き物が自分の脱出を妨害していたんだと思い、ある日陸にやってきたウミガメを棒で殴打し、腹を上にしてひっくり返してしまいます。

※以下ネタバレ含みます。

 

 

 

 ところが、男が「やりすぎた」と思って後悔していたところ、このウミガメが突然若い女に姿を変えます。そして2人は恋に落ち、子供をこさえて3人で暮らし始めます。

 ウミガメが女になった時点で、「男が幻を見ているのかな」と思うわけですが、子供まで作られるとなんだか現実味が湧いてきます。でもこんな状況で人間3人が生活できるのかというとやはり考えにくい。3人の幸せそうな暮らしぶりがいかにもわざとらしい感じもして、これは現実ではないんだろうと思いながらも「このあとどうなるんだろう、夢or妄想オチかな」と非常に先が気になる。

 そんな中、島を突然津波が襲ってくるシーンがあります。このシーンが物語にとってどんな意味を持っているのかは頭の悪い僕にはよくわかりませんが、震災経験のトラウマがある日本人にとって心底怖い場面であることは間違いありません。海の水が突然引いて、遠くから水の壁がやってくる画のインパクト。はっきりいって、これまでに観たどんな津波演出よりも不気味です。

 津波が引いたあと、すっかりたくましく成長した息子は母と父を助けます。そして元気を取り戻した3人は大きな焚き火をします。ここで僕が思い出したのは村上春樹の短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収録された「アイロンのある風景」という小説です。この小説は阪神淡路大震災のあとに発表された小説で、どういう意味があるのかはやっぱりアホな僕にはわからないのですが、

そこにある炎は、あらゆるものを黙々と受け入れ、呑みこみ、赦していくみたいに見えた。(村上春樹「アイロンのある風景」より)

という一節がありまして、この津波とその後の焚き火は、主人公の男が“赦し”を得たということなのかな、などと考えたりもするのでした。

 男と女の子供がある日島を出ていき(しかもそれは筏を使うのではなく泳ぎ!)、やがて年老いた男が死ぬと、寄り添っていた女はいつの間にかあの赤いウミガメになっている……とこう書くと「すべては、年老いるまで無人島で過ごした男の妄想だったんだな」と思いがちなのですが、そういうわかりやすい解釈をするのも野暮だよなと思わされてしまう作りになっているのが、この映画の不思議で良いところだと思います。

 これも使い古された表現ではありますが、いろいろな解釈ができる。まさに人によって受け取り方が違ってくるお話であり(「意味がわからない」「つまらん」とかそういう単純な感想は“受け取り方”ではありませんが。そもそも受け取る気がないんだから)、僕のように産卵時のウミガメみたいに涙を流してしまう人もけっこういるんじゃないかと。

 『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『かぐや姫の物語』の監督・高畑勲が“アーティスティック・プロデューサー”なる肩書で参加していますが、そう思って観ていると、例えば男の息子がある日島を出ていくところは(しかもカメのお供付き!)『かぐや姫の物語』ぽいなと思います。竹みたいなのもいっぱい出てくるし。

 とにかく、個人的には今年観た映画のベストテン入りには間違いない出来というか、少なくともアニメ映画枠なら断トツでベストワンといってもいいほどの作品でした(久々にパンフを買おうかと思った)。こんなにいい映画にお客さんが入っていないということはやはり残念の極みです。

 それにしても、こういう作品を作れる人材をちゃんと拾ってくるあたりがさすがスタジオジブリというか鈴木敏夫というか、商売人としてはイマイチなのかもしれないけど、本当にすごいなと改めて思わされます。そして、ジブリは日本で受けているけれど本当のジブリのすごさというのは実はあまり伝わっていないんじゃないかとも感じますね。

 

レッドタートル ある島の物語 サウンドトラック

レッドタートル ある島の物語 サウンドトラック

 

 

岸辺のふたり HDリマスター版 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット作品集 [DVD]

岸辺のふたり HDリマスター版 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット作品集 [DVD]

 

↑アカデミー短編アニメーション賞を受賞した、デュドク・ドゥ・ヴィットの過去作。

 

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

 

 

 

スタジオジブリ大解剖 (サンエイムック)

スタジオジブリ大解剖 (サンエイムック)