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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『オーバー・フェンス』を観た

日本映画

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overfence-movie.jp

※ネタバレあり。

 

 はい、とても好きな山下敦弘監督の最新作です。とはいえ、前作『味園ユニバース』が個人的には「……」な出来だったので、今回はちょっと不安でした。

味園ユニバース』の感想はこちら↓

notesleftbehind.hatenadiary.com

 『オーバー・フェンス』は佐藤泰志の短編をもとにしています。原作は『黄金の服』という作品集に収められています。

黄金の服 (小学館文庫)

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 で、今作は熊切和嘉が監督した『海炭市叙景』、呉美保が監督した『そこのみにて光輝く』に続く、“函館三部作”の最終章ということになるそうです。

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そこのみにて光輝く 通常版DVD

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 『海炭市叙景』も『そこのみにて光輝く』も重い話で、なおかつ傑作でした。これに続く作品を作るのは結構なプレッシャーだったんじゃないかと思います。ただ、山下監督ってシリアスな作品を作るのが下手だとは個人的には全然思っていなくて、『マイ・バック・ページ』とかすごく良かったと思うんですよね。世間的な評判はいまいちぽかったですが。

マイ・バック・ページ [DVD]

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 しかも、原作を読んだところ、『オーバー・フェンス』は佐藤泰志の小説の中でもわりと希望のあるお話だったので、これは期待ができるんじゃないかと思って鑑賞に臨んだわけです。

 ですが、結果としては、『味園』ほどひどい出来ではないものの、今回もあまり満足のいく映画ではありませんでした。あくまで個人的には、ですが。

 『オーバー・フェンス』はそもそもかなり短いお話なので、脚色するにあたってかなりアレンジが加えられています。脚本を担当したのは高田亮。『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』、このブログで取り上げた作品だと『セーラー服と機関銃 -卒業-』なんかの脚本を書いてますね。

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 とても大きな改変点は、ヒロインである聡のキャラクターです。原作では「ちょっと陰のある美人」ぐらいのものですが、映画ではものすごくエキセントリックになっています。道端で鳥の求愛ダンス?を踊ったり、突然オダギリジョー演じる主人公・白岩にブチキレて喚き散らしたり、まあ平たくいえばメンヘラのめんどくさい女です。そして、『黄金の服』に収められている表題作に登場する女・アキの設定がこの聡に加えられています。自分の体が汚れているという強迫観念に駆られていて、台所で裸になって体をぱしゃぱしゃ手で洗ったりします。

 まあそういう改変は別にいいんです。うまく映画になじんでいたら。でも僕には、どうもこの聡というキャラクターの存在が、ただの異物になっているようにしか思えませんでした。“異物感”は良い効果ももたらしますが、この映画での聡の行動とか言動は物語から浮きすぎです。特に白岩と寝たあとに癇癪を爆発させるシーンなどは、ただただ不快。

 山下監督の作品にはよくダメな人たちが出てきますが、どのキャラクターも「すごくおかしい人ではないけどちょっと世間からずれてる人たち」でした。そして、その「ちょっとのずれ」を演出するのがものすごく上手な監督だと思うんです。でも皮肉なことに、「ものすごくずれた人」を演出するのはあまり上手ではないんじゃないかと、今作を観て思いました。聡が癇癪を爆発させるシーンは、たとえ同じ台詞であってももう少し違うディレクションの方向性があったんじゃないかと。

 それに、山下監督って、実は女性を演出するのがあまり好きじゃない(もしくは苦手)んじゃないかなと思いました。本作でも男性陣はいいんですよね。白岩が通う職業訓練校の面々とか、とても良かったです。北村有起哉とか、鈴木常吉とか、松澤匠とか、すごくいい味を出している(それでいて山下作品ぽいキャラ)。でも女性は…。『もらとりあむタマ子』は面白かったけど、タマ子にはもともとあまり女性らしさがないので(要は山本浩司の女版をやっているということなんだと思う)。

 白岩が別れた妻(優香)と再会するシーン(これも映画のオリジナル)で、実は聡が車からそこを見ているというのも、「なんか怖い」という印象しか残りませんでした。壊れた女だけど愛さずにはいられない、ダメな奴だけど愛さずにはいられないというのはわかるけども、キャラクターの掘り下げが浅くて「あっさり仲直りするなあ…」と思ってしまいました。

 と、色々不満も書きましたがいいところもあったと思います。例えば、鳥の羽根が舞うシーン。幻想的で、どうしてこんなことが起きるのか?とは思うのだけど、不思議と違和感がない。正直、唐突に羽根が降るシーンより聡のキャラのほうがよっぽど浮いてます。

 それから、いかにも山下監督っぽい笑えるシーン。特に、白岩が訓練校の仲間の家で目覚めて朝食をご馳走になるシーンは『リアリズムの宿』(個人的には山下監督の最高傑作だと思う)を思い出して笑ってしまいました。同様に、キャバクラ(?)での松田翔太蒼井優のやり取りなんかもすごく山下監督っぽい。あそこでカラオケに合わせて松田翔太が歌い出しりしたらまんま『リアリズムの宿』ですね。

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 というわけで、自分の山下監督への期待値からいえば全然満足できない映画ではありましたが、『味園』よりは全然良かったし、結構好きな人もいるんじゃないですかね。僕はこれから公開を控えてる『ぼくのおじさん』に期待したいと思います。ファンだから、新作は観に行きます。