ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『アイアムアヒーロー』を観た

f:id:q050351:20160424211659j:plain日本/127分

監督:佐藤信
原作:花沢健吾
脚本:野木亜紀子
撮影:河津太郎
編集:今井剛
音楽:Nima Fakhrara
出演:大泉洋有村架純長澤まさみ ほか

鈴木英雄(大泉洋)35歳。職業:漫画家アシスタント。彼女とは破局寸前。そんな平凡な毎日が、ある日突然、終わりを告げる…。徹夜仕事を終えアパートに戻った英雄の目に映ったのは、彼女の「異形」の姿。一瞬にして世界は崩壊し、姿を変えて行く。謎の感染によって人々が変貌を遂げた生命体『ZQN(ゾキュン)』で街は溢れ、日本中は感染パニックに陥る。標高の高い場所では感染しないという情報を頼りに富士山に向かう英雄。その道中で出会った女子高生・比呂美(有村架純)と元看護師・藪(長澤まさみ)と共に生き残りを賭けた極限のサバイバルが始まった…。果たして彼らは、この変わり果てた日本で生き延びることが出来るのか。そして、英雄は、ただの英雄(ひでお)から本当の英雄(ヒーロー)になれるのか!?(公式サイトより)

※ネタバレあり。

 チネチッタで鑑賞。

 単刀直入に言いましょう。

 大満足です。

 原作はアウトレットモールに立てこもるあたりで飽きて読むのやめちゃったんですが、この映画版を観てたらもう一回読み直したくなってきました。

 映画の中ではZQN(ゾキュン)とか呼ばれてますが、要はまあゾンビです。ゾンビの中でもジョージ・A・ロメロの映画とか『ウォーキング・デッド』とは違って、“動き早い系”ゾンビですね。どっちかというと『28日後…』とか『ワールド・ウォーZ』系。

 主人公を演じるのは最近引っ張りだこの大泉洋。最初にこのキャスティングを知ったときは“微妙だな…”と思ったんですが、映画の場面写真が公開されたときに“案外いけてるんじゃない?”と。この英雄というキャラクターはうだつのあがらない漫画家アシスタントという役ですし、全然ヒーローっぽくない人なので大泉さんにはぴったりなんですよね。というと大泉さんに怒られそうですが。そして映画本編を観ると、大泉さんがもうハマり役というか、むしろ漫画を読むのやめちゃった僕からすれば『アイアムアヒーロー』の主人公といえば大泉さんが浮かぶぐらいの状態になっちゃって。

 この映画、パニックものという中でもしっかりと主人公の成長を描いていて、特に僕がいいなと思ったのは英雄がロッカーの中で仲間を助けに行くか迷いに迷うシーンです。隠れていたロッカーから飛び出た瞬間、自分がどんなふうにZQNに食い殺されるかというパターンを英雄は何度も何度も考えてしまいます。漫画家として成功できずヘタレな彼ならではの志向というか、実際の人間ってこんなもんなんじゃないかと思います。『ウォーキング・デッド』の主人公とか、ちょっとカッコよすぎですもんね。英雄の思考とか行動は僕みたいなヘタレからするとものすごく感情移入しやすい。

 自己紹介する時、「英雄(えいゆう)と書いて英雄(ひでお)」と何度も言っていた彼が、終盤に本物の英雄になったところで何も言わない(もしくは言えない)ところ。あそこ、上から差し込む光を浴びている英雄のショットが素晴らしいですよね。あそこで「英雄(えいゆう)と書いて英雄(ひでお)」と言えばいいのにとかいう感想も見かけましたが、そんな野暮なことしないでくれてほんとよかった。あそこは黙ってるからいいんですよ。英雄は語らないんです。

 そんな主人公の成長譚としての面白さもさることながら、やはりこの映画の一番の凄さは逃げずに思いきりゴア(グロ)描写をやってることでしょう。シッチェスで評価されたのもわかる気がします。

 片瀬那奈演じる恋人てっこのシーンをちゃんと再現していたのもよかったですが、僕が心底「これは凄い、キモい。キモくてキモティー!!!!!」と世界の中心で快哉を叫びたくなったのは、異変が起こってから英雄が仕事場に戻ってからのシーンです。このシーン、塚地武雅が素晴らしいしマキタスポーツも最高。血が飛び散るシーンをちゃんと見せてるし、脳漿みたいなものもしっかり映してる。日本映画によくあるいかにも嘘くさい血糊じゃなくて、本当に気持ち悪い血の表現をちゃんとやってる。そして何よりZQN化した人間たちの造形をちゃんと気色悪く見せてる。特にアシスタントのみーちゃんとか最高でしたね、結構こういうのには慣れてるはずの僕でもゾッとするぐらい気持ち悪かったですよ。

 もう正直、この冒頭のつかみの時点で「あ、この映画は大成功」と思いました。「意外と面白いんじゃないの?」みたいになめてかかってて本当にすみません、という感じ。

 グロ描写でいえば、終盤の大虐殺シーンも最高。頭が吹き飛ぶ、腕が無くなるなどの切り株描写もふんだんにあり。弾ありすぎじゃね?とは思ったものの、とにかくものすごい数のZQNがゴミのように死んでいく。途中で出てくるデブのやつとか最高。実写版『進撃の巨人』なんかよりよっぽど気持ち悪かったです。あとハイジャンプ野郎のジャンプについてはちゃんとワンカット(実際にはワンカット風かな)で見せてるのにも感心しました。日本でもこれぐらいできるんじゃんっていう。東宝、やればできるんじゃんっていう。超上から目線ですが。ほんと実写版『進撃の巨人』ってなんだったの?

 モールに立てこもる展開とか人間同士でいがみ合うとかそういう設定はゾンビ映画のテンプレなわけですが、この作品はただ過去作をトレースしてるだけじゃなくてしっかりとアップデートしてるのが素晴らしいと思います。いいですか皆さん? 日本映画がゾンビ映画をアップデートしてるんですよ? しかも東宝が。もちろん原作ありきという点もあるとはいえ、これはすごいことです。

 重箱の隅をつつくことを言うなら、英雄と比呂美が打ち解けるのがあまりにも早過ぎるように感じたことと(まあこれは仕方ないと思うけど)、やっぱり有村架純がもうひとつ比呂美役にはハマってないと感じられるところですかね。あの役はもうちょっと闇を持ってそうな女の子がやらないと。有村架純は屈託のないJKにしか見えないんですよ。それからこれは劇場側の問題かもしれないけど、神社の境内みたいなとこで英雄と比呂美が喋るシーンで、明らかに有村架純の顔にピントが来てないショットがあったことが気になりました。ミスなのかな。

 ただね、こんなのはほんとうに瑣末なことで。僕としては、日本映画、しかもメジャーな映画会社で、これだけ大量の人間がゴミのように死ぬ大作を作ってくれたことが本当にうれしい。やればできるんじゃん、日本映画だって。やればできるんじゃん、東宝だって。と思わずにはいられない。これぐらいのクオリティで『シン・ゴジラ』もできてたらいいんだけどな……。

 チネチッタデーというサービス日で通常より鑑賞料金が安かったということもあると思いますが、劇場はかなりの人でにぎわってました。コミカルなシーンではちゃんとウケてたし、あまり内容を知らずに観に来た若いカップルとかがちょっと引いてるのが感じられて思わず“ざまあ”と思ってしまいました。ここまでグロいとは思わずに観に来ちゃって、女の子が引いて別れたりするカップルもいたかもしれません。いや、もう別れていいよそんな女。これから観に行く人でこの文章を読んじゃった人、「え、どうしよう、彼女引くかも…」とか思ってるかもしれませんね。まずは観に行きましょう。そして実際に引いたらもう別れましょう。

 というわけで、多分ここ20年ぐらい(いやもっとか?)の東宝の映画で一番の傑作だと思われる『アイアムアヒーロー』の感想でした。

 あ、出版社編集部で『ルサンチマン』(原作者の過去作)映画化ってポスターが貼ってあったり、英雄と同期の売れっ子漫画家の絵を浅野いにおが担当してたりっていう小ネタも面白かったです。