ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『ルーム』を観た

f:id:q050351:20160327183541j:plainRoom/アイルランド、カナダ/118分

監督:レニー・アブラハムソン
原作:エマ・ドナヒュー(『部屋』)
脚本:エマ・ドナヒュー
撮影:ダニー・コーエン
編集:ネイサン・ヌージェント
音楽:スティーヴン・レニックス
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー

5歳の誕生日を迎えたジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は、狭い部屋に母親(ブリー・ラーソン)と2人で暮らしていた。外の景色は天窓から見える空だけ。母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。2人はある男(ショーン・ブリジャース)によってこの部屋に監禁されていたのだった。しかし母親は真実を明かす決断をし、部屋の外には本物の広い世界があるのだとジャックに教える。そしてここから脱出するために、ついに行動を開始するのだったが…。(allcinemaより)

※微妙にネタバレあり。

 主演のブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を受賞した作品です。監督はマイケル・ファスベンダーがずっとかぶりものをしてる映画『FRANK』のレニー・アブラハムソン。『FRANK』はまだ観ていません…けっこう好きなタイプの作品なのに。近々観ておこう。『ショート・ターム』の感想はこちら↓

notesleftbehind.hatenadiary.com

 

 もともとの原作はエマ・ドナヒューという作家の小説で、ドナヒューは本作の脚本も担当しています。

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

 

 

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

 

 映画は主に2つのパートに別れます。前半部分は母親(名前はジョイというので、以下ジョイ)とその息子ジャックが、ずっと監禁されている部屋から脱出を試みるパート。ジョイは7年監禁されているけど、息子ジャックは5歳。ということは…想像がつきますよね。

 この前半部分では、「ここを出なきゃいけないの」というジョイにジャックが反発するシーンがメインになっています。ここには、2つの隠喩が隠されていると思います。1つは子宮から出て生きていくことへの恐怖だし、もう1つは“社会”という世界への恐怖でしょう。後者は耳が痛いですね。僕はいまだに“社会”というものに慣れませんし、変化に弱い男なので“ずっとこのままでいい”と思うジャックの気持ちもわからないではありません。

 結果的に、ジョイは監禁野郎を騙してなんとかジャックを脱出させることに成功します。このシーンはなかなかスリリングです。そしてジャックが初めて本物の“世界”を知るシーンのドラマティックな描写。観客はそれまでずっと薄暗い部屋の中でくすぶるジョイとジャックを観ていたわけですから、ジャックが感じる世界の開放感を彼と同じように享受するわけですね。このシーンは音楽もよくて、感動してしまいます。

 その後ジャックは監禁野郎に捕まりそうになるのですが、結果的には助かり、警察になんとかヒントを与えます。監禁野郎もタイーホ。ジャックを逃がしてからジョイがどうなったかがわからないので、「ひどい目に遭ってないだろうか、もしかして殺されていないだろうか」と思ったりもするぶん、彼女が無事で、パトカーの中のジャックに向かって駆け出してくるシーンのカタルシスはすごい。僕の横に座っていたおばさんが、ジャックが外に出たあたりからずっとボロ泣きでやばかったんですが、この再会シーンではまさに“堤防決壊”という感じでした。

 そして後半は、外の世界に出た2人が社会に順応していくという展開になります。最初はジョイ以外の人間を恐れているジャックですが、次第に彼は“世界”に慣れていきます。ところが、ジョイのほうは逆に「部屋」を出てから苦しみ始めます。両親は自分が行方不明になっている間に離婚しており、父親はジャックに居心地の悪そうな視線を向けます。血がつながっている孫には違いないのですが、娘の相手は彼女をレイプした男だからです。むしろジャックと打ち解けるのは、ジョイの母親と再婚した血のつながりのない人。

 ジョイの父親はジョイに激高され、どこかへ行ってしまいます。ジョイはやり場のない怒りを母親にぶつけ始めます。さらに、思い切って取材を受けたテレビ番組のリポーターの無神経な質問に彼女は傷つきます。息子がようやくまともな人生を歩み始めたのに、どんどん追いつめられていく彼女は…。

 この映画の面白いところは、前半部分では母親が子供に“世界”を教えようとするのに対して、後半部分では逆に母親が子供によって救われるという構造でしょう。うちの母親が昔「子供に教えられること、救われることというのはものすごくたくさんある」と言っていたことを思い出しました。単純にうちの母親がバカだから教えられることがたくさんあるだけなんじゃないかとも思いましたが。

 ただ、こうした構造のせいなのか、約2時間という映画の中でカタルシスを感じる部分が真ん中辺りにきてしまい、終盤がやや尻すぼみになってしまったのは少し残念でした。この原因は、原作者自らが脚本を手がけていることとも関係している気がします。小説ではこの構成でよくても、1時間30分を過ぎたあたりで最大の大波(カタルシス)が来るという映画的な構成に慣れている観客は物足りなく感じてしまうというか…。映画ではもう少し脚色して「もっと泣かせてくれてもええんやで」と思いました。

 でもこんな感想は野暮というものかもしれません。1時間30分を過ぎたあたりで大波が来るんだから、というのもこちらの勝手な決め付けです。音楽でいうと、必ずしもサビが超キャッチーじゃなくてもいいじゃないということです。Aメロが良ければそれでいいじゃない。

 それにしても、上にも書いた隣りのおばさんの号泣ぶりには驚きました。会場のあちこちから鼻をすする声を聞いたことぐらいは何度もありますけど、隣りのおばさんはほとんど嗚咽レベルでした。もしかしたらこの人には同じぐらいの歳の子供とかがいるのかなとか思いました。うちの母親とかこの映画を観たらやっぱり感動するのかなあ。でも『恋空』で泣いた人だから無理だろうな。「こんな自分を犯した相手の子供なんて愛せない!殺す!」とか普通に言いそうです。

 残念なうちの母親の話はともかく、いい映画なのでぜひ観てほしいです。子供がいる人には特に響くんじゃないかな。