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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『サウルの息子』を観た

f:id:q050351:20160102003640j:plainSaul Fiaハンガリー/107分

監督:ネメシュ・ラースロー
脚本:ネメシュ・ラースロー、クララ・ロワイエ
出演:ルーリグ・ゲーザ ほか

1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。サウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ハンガリー系のユダヤ人で、ゾンダーコマンドとして働いている。ゾンダーコマンドとは、ナチスが選抜した、同胞であるユダヤ人の死体処理に従事する特殊部隊のことである。彼らはそこで生き延びるためには、人間としての感情を押し殺すしか術が無い。 ある日、サウルは、ガス室で生き残った息子とおぼしき少年を発見する。少年はサウルの目の前ですぐさま殺されてしまうのだが、サウルはなんとかラビ(ユダヤ教の聖職者)を捜し出し、ユダヤ教の教義にのっとって*手厚く埋葬してやろうと、収容所内を奔走する。そんな中、ゾンダーコマンド達の間には収容所脱走計画が秘密裏に進んでいた・・・。 *ユダヤ教では火葬は死者が復活できないとして禁じられている。(公式サイトより)

 最初に言っておきましょう。この映画はアカデミー賞外国語映画賞を獲ります。

 ホロコーストもので外国の映画祭でも軒並み評価が高いですからね。下馬評ではこれと「Tangerine(原題)」が争うといわれてますが。

 監督は『ニーチェの馬』のタル・ベーラの助監督をやっていた人です。『ニーチェの馬』、観ましたか? 僕は観ていません。寝そうなので……。

 この映画には“ゾンダーコマンド”という特殊部隊が出てきます。といってもナチの部隊ではなく、強制収容所で死体処理を行うために編成された囚人たちです。用が済むと彼らも殺される運命にあります。

 実はゾンダーコマンドを扱った映画は以前にもありました。『灰の記憶』という作品です。 

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 あまり有名じゃない映画ですが、ハーヴェイ・カイテルとかスティーヴ・ブシェミが出たりしています。当時同居していた友人と2人で観て、あまりに救いのないその結末にドン引きした思い出があります。

 『灰の記憶』と『サウルの息子』はストーリーラインも少しだけ似ています。『灰の記憶』はガス室で生き残った女の子をどうにか助けようとする話で、『サウルの息子』はガス室で生き残った男の子(結局死んじゃうんだけど)をユダヤ式のやり方で埋葬しようとする話です。生きてるか死んでるかという違いはあれど、「絶望的な状況に置かれた人間が、すでに捨ててしまったかと思っていた人間性を必死に取り戻そうとする」という筋書きはほぼ同じじゃないでしょうか。

 『サウルの息子』はスタンダードサイズ(横:縦が4:3の比率)で撮影されていて、被写界深度の浅いレンズを使って、POVのような形で主人公をカメラが追うというスタイルです。ガス・ヴァン・サントと撮影監督の故ハリス・サヴィデスが『エレファント』や『ラストデイズ』でとった方法と少し似ているかもしれません。

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 「被写界深度が浅い」というのは、要はピントが合っている部分が狭いということです。『サウルの息子』のファーストカットは、写っているもの全部にピントが合っておらず、しかもその画がしばらく続くので頭がくらくらします。すると遠くから主人公のサウルがやってきて、ようやくカメラは撮るべきものを見つけたように彼の動きについていきます。このファーストカットがまあ長いんですが、観客はこの長回しにつきあっているうちに、サウルのいる狂った世界(しかもそれは現実に存在していた)に引きこまれていくわけです。

 用なしと判断された人々を、家畜を追うようにガス室に誘導し、扉を閉めるゾンダーコマンドたち。重そうな鉄扉は希望を捨てた彼らの心そのもののようです。“処理”が終わると、彼らは死体を片付けて燃やしてしまいます。

 サウルが見つける“息子”が、本当に彼の息子であったのかどうかは最後までわかりません。背景が説明されないのでわからないのですが、サウルはどうも自分の子供と離れて暮らしていたようです。自分の身に降りかかる危険もかえりみず、それまで黙々と機械のように生きていた彼は奔走します。

 僕の想像ですが、サウルはガスを浴びながらわずかの間でも生き残った子供を見て、自身が生きた人間であることを再確認したんじゃないでしょうか。子供が結局死んでしまったこと自体にはサウルは拘泥していないように思えます。途中で川で流れちゃってもあんまり気にしていない気がするし。彼は息子のために動いているようで、実は自分自身のために動いていたのではないかと。しかもそれは感情的なものではなくて、もっと根源的な本能のようなものから来ていたんじゃないかと感じました。

 全体的に特に文句をつけたいと思うところもなくよくできた映画だとは思いましたが、特に好きというわけじゃありません。ゾンダーコマンドについては『灰の記憶』で知っていたし、撮影方法もドキュメンタリーのような空気感も特に新鮮には感じませんでした。観方が間違っているのかもしれないけど……。

 まあつきあい始めの恋人とデートで観に行く映画ではないと思います。当たり前だ。