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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

寒天の夜

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 これは、これから親になる人、小さい子を持つ大人たちへ向けたメッセージである。

 というのはウソで、なんとなくシャワー浴びながら思い出した話。

 小さいときから僕の家は共働きで、父親はいつも遅く、母も夕方頃に帰ってくることが多かった。

 そのとき僕はたぶん4歳か5歳ぐらいだったのだが、不思議とその日のことはよく覚えている。

 季節は冬だった。当時、両親と僕は風呂もついていない尼崎のボロアパートに住んでいた。弟はまだ生まれていなかったので、当然両親がいないと僕は家に1人ということになる。

 その日、なぜか母は帰りが遅かった。冬だから時間にしてみれば5時ぐらいだったのかもしれないが、外が暗くなってくるので僕はだんだん不安になってきた。夕焼けが真っ黒な夜に変わると、寂寥感のようなものを感じ始めた。都会だから外では車が通る音もしていたはずなのだが、幼児の僕にとって「1人きりで過ごす夜」はあまりに重苦しすぎた。

 最初はそのうち母が帰ってくるだろうと思っていたのだが、いつまでたっても玄関が開く音はしない。そのうち僕は「もうこの家には誰も帰ってこないのではないか」と思い始めた。

 真っ黒な窓の外には、自分の知らない夜という世界があった。そのときの僕にとっての夜のイメージは、青黒い寒天のようなものだった。青黒い寒天が、僕らの住んでいたアパートを完全に閉じ込めていたのだった。

 そうやって帰らない母親を待っていると、窓の隙間からその寒天がするすると侵入してくるような気がしてきた。泣きこそしなかったものの、「捨てられる!」という絶望感が僕の心を満たし始めた。

 でも、玄関のドアは開いた。入ってきたのは父方の祖母だった。そのあとのことはあまり覚えていないが、大人になってから母親がこんなことを言っていた。「あんたを1人ぼっちにして遅くまで仕事をしていたことがあって、あのあとおばあちゃんにちょっとお説教されたのよ」。

 今でも覚えているぐらいだから、あの日のことは幼児期のトラウマのようなものになっているのかもしれない。でも、あのときの自分は恐怖だけではなくて、心のどこかで奇妙な昂揚感のようなものを感じていた気もする。なんで、と問われてもわからないのだが。