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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『岸辺の旅』を観た

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日本、フランス/128分

監督:黒沢清
原作:湯本香樹実
脚本:宇治田隆史、黒沢清
撮影:芦澤明子
編集:今井剛
音楽:大友良英、江藤直子
出演:深津絵里浅野忠信小松政夫蒼井優柄本明 ほか

夫の優介(浅野忠信)が失踪して3年になる瑞希(深津絵里)。ピアノ教師をしながらも喪失感を拭えないままの孤独な日々を送っていた。そんなある日、優介が突然帰ってきた。しかも富山の海で死んだと淡々と語る優介。瑞希は驚きながらもそれを受け入れる。やがて優介は、死後に自分が旅してきた美しい場所を瑞希にも見せたいと、彼女を旅に誘う。こうしてふたりは、優介が3年の間を過ごした足跡を辿り、彼が世話になった人々を巡る旅へと出発するのだったが…。(allcinemaより)

 今年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で監督賞を受賞した作品です。

 黒沢清監督の作品で初めて観たのは『CURE』なんですが、この映画は本当に怖くて不気味な映画でした。当時、初めて買った自分用のテレビ(ブラウン管)で観たんですが、そのときの自分の部屋の雰囲気とかを妙に覚えてます。サイコスリラーといえば『セブン』や『羊たちの沈黙』なんかが有名ですが、『CURE』はそのどちらとも違う感触を持った映画でした。僕が日本映画をたくさん観始めたのもこの頃からだったと思います。

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 今回の『岸辺の旅』は湯本香樹実の小説が原作。行方不明になっていた夫(の幽霊?)と、彼に誘われるまま旅に出る妻のお話です。予告編を観るとなんだか感動的な話っぽいのですが、いざ映画を鑑賞すると“なんだ、いつもの黒沢清の映画じゃないか”と思わされてしまいます(これは褒め言葉のつもり)。

 まず、浅野忠信演じる夫・優介の登場シーンからしてまったく感動的じゃないです。ていうか、ホラーだろこれ。詳細は書きませんが、この時点でもう「黒沢清汁」のシズル感がたっぷりです。

 この冒頭の時点から、不穏な空気がたっぷり。人によってはここで「思ってたのと違う」と感じてがっかりするかもしれませんが、僕は「待ってました!」といわんばかりにスクリーンに釘付けです。

 一番びっくりしたのは中盤、中華料理店に優介と瑞希(深津絵里)が住み込みで働き初めてからの、とあるシーン。中華料理店のかみさんの死んだ妹と、古いピアノが絡められた場面。映画を観た直後の感想が↓です。

 感想というかアホの独り言みたいですが、まさしくこの通りで。観ていて本当に「ビリビリ」と目の前が震えて、涙が出てきたのです。特にものすごく斬新な映像というわけではないのですが、「何かが映像に映る(あるいは映ってしまう)」という恐ろしさを見せつけられたというか……うまく説明する言葉がまったく見つかないのですが。とにかくこのワンシーンだけで満足してしまったといっても過言ではありません。

 黒沢清監督の作品でいうと『回路』や『叫』でもびっくりさせられてきましたが、それらを凌駕するほどの驚きでした。人によっては「何がすごいの?」と思うかもしれないです。もしかしたら『岸辺の旅』を観た全世界の人間の中でこんな風に驚いたのは僕だけかもしれない。でもとにかく、“なんだかとてもやばいものを観た”という僕の感覚だけには嘘がつけません。

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 もちろん映画の見所はこれだけではなく、たとえば道路近くの長回しのショットとか、小松政夫が出てくるシークエンスの終わり方など、とにかくどこを切っても感動ものには仕上がっていません。ほぼ不穏な気持ちになるだけです。夫婦の感動ものを期待して観に行くとケンカになる可能性すらあるでしょう。

 個人的には、例の中盤のシーンがあまりにインパクトが強かったためにそれ以降が尻すぼみに思えたのが残念だったポイントかもしれません。それから一番気になったのが、音楽です。はっきりいって映画の内容に合ってません。監督自らの注文に沿った結果なようですが…。

natalie.mu

 それから、ラブシーンもあんな感じなら最初から要らなかったような気がしますね。黒沢清が撮ったラブシーンにしては普通すぎる。

 それにしても予告編観てると「メロドラマ」とか「ラブストーリー」とか書いてあるけど、僕にはどっちの要素もほぼ見出だせなかったけどなあ。やっぱりホラー映画だと思うんだけど。