ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

部屋と花火

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 このエントリーを読んで、なんともいえない気持ちになった。実は僕もこのときの隅田川花火大会に行っていたのだ。

 僕には当時同棲していた女性がいたのだけど、いろいろなことがあって2人の関係はとっくに壊れていた。なのに、どういうわけか彼女の実家の浅草に行って花火大会を観ようということになった。

 彼女は先に実家に行っていて、僕は遅れていった。いざ浅草に着いてみたら大混雑。徒歩で彼女の実家にたどり着くのにも相当時間がかかりそうだった。その頃の僕は彼女と家でケンカばかりしていたこともあって、相当イライラしていた。

 メールで「駅前が死ぬほど混んでて辿り着けそうにない」と伝えると彼女から電話がかかってきて、「え? でも〜から行けない?」などと言う。僕はイライラしているので、「いや無理だよ。こんな混んでちゃ。もういいよ」と返してしまう。そんな言い方をすれば、彼女はきっと腹を立てるだろうなと思った。

 でも、彼女はとくに怒りもせず「そうなんだ。でも待ってるね」と言って電話を切った。よっぽどそのまま帰ってしまおうかと思ったけど、相手が言い返したり不機嫌にならなかったことから、僕はちょっと拍子抜けしてしまった。そして、イライラしながらも不慣れな東京の街を遠回りしてなんとか彼女の家にたどり着いた。

 家には、以前会ったことのある彼女の兄、そしてその奥さん、2人の子供がいた。子供たちは初めて会った僕を警戒心と好奇心の入り混じった目で見ていた。僕は子供の相手をするのが得意じゃないから、一緒に遊んだりすることはできない。

 彼女のお父さんは、家にいなかった。重い病気を患っていて、結局入院したままだったのだ。彼女のお父さんはきっといろんな意味で僕のことをよく思ってはいなかっただろうけど、僕は彼のことが嫌いではなかった。穏やかで、芸術家肌で、頭もよさそうだった。だから、彼がいないことは少しさびしかった。

 花火が始まったとき、雨が降っていたかどうかは覚えていない。ただ、僕と彼女がその家の屋根に登って遠くに上がる花火を見たことは覚えている。足を滑らせれば大怪我をしかねないような場所で、僕らは花火を見た。僕も彼女も、そのとき「もうお互いのことをなんとも思っていないというのに、うちらは何をやってるんだろう」と考えていたんじゃないだろうか。

 しばらくすると、いつの間にか降りだした雨の勢いが急に強くなった。なんとか頑張って見ていたのだけど、さすがにずぶ濡れになるのはまずいので僕と彼女は屋根から降りた。家の中に入ってテレビ中継を見ると、「豪雨のため中止」と伝えられていた。僕らは「残念だね」なんて言いながら、酒を飲んだり食べ物を食べたりして、2人で帰ることにした。

 それから1カ月も経たないうち、僕らは同棲を解消して別れた。2人とも相手のことが大嫌いで、ある意味ではそれは幸福な別れ方だったと思う。もしどちらかが未練を持っていたりしたら悲惨だ。

 彼女の方が先に引っ越してしまったので、僕はがらんとした2DKの部屋で2、3日ほど寝泊まりした。結婚したり子供がいたりしなくて本当によかった、と思った。そして、家具を置いていたときには狭く感じた部屋が、引っ越してきた当初のように再び広くなったのを感じた。でも、引っ越してきたときに感じた広さと、同棲を解消してから感じた広さは、全然別のものに思えた。

 その後、たまたまその家の近くを通りかかった僕がベランダを見てみると、灯りがついていた。もう新しい住人がいるのか、と思った。同棲を解消したときに僕が感じたあの部屋の広さは、次の住人から見れば希望に満ち溢れた広さなんだろうなと思った。

 今年の夏に引っ越した家のベランダからは、多摩川の花火が見えた。僕はその花火を見ながら、彼女の父親はどうなったのだろうと考えた。そして、あのがらんどうの部屋のことを思い出した。