ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『野火』を観た

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監督:塚本晋也
原作:大岡昇平
脚本:塚本晋也
撮影:塚本晋也、林啓史
編集:塚本晋也
音楽:石川忠
出演:塚本晋也リリー・フランキー中村達也、森優作 ほか

日本軍の敗北が決定的なレイテ島。結核を患った田村一等兵野戦病院行きを命じられ、部隊から追い出される。しかし病院でも追い返され、舞い戻った部隊でも入隊を拒否される。行き場を失い、激しい空腹に苦しみながら果てしない原野を彷徨い始めた田村だったが…。(allcinemaより)

 ユーロスペースにて鑑賞。

 別に意図したわけじゃないんですけど、8月15日の終戦記念日に観に行きました。この日は25歳以下の人が特別料金の500円で鑑賞できたんですが、僕が行った15時の回は30代以上の人が多かったように思います。老け顔の人が多かっただけなのかもしれませんけど。ちなみにテレビ局の人たちが取材に来ていて、25歳以下と思われる人たちがインタビューされてました。僕に声がかからなかったということは、やっぱり25歳以下には見えないんですね。

 さて、『野火』ですが。これ、ほとんどホラー映画です。というか、日本軍が太平洋戦線で置かれた状況そのものが、これまでの一部の戦争映画で描かれてきたようなヒロイックなものではなくホラーそのものだったのかもしれません。乱暴にまとめると「食料も武器弾薬も送れないけど根性でなんとかしろや」って話です。ワタミの社長も真っ青ですね。

 映画が始まってすぐに気づくのが、映像のヴィヴィッドさです。『プライベート・ライアン』以降の戦争映画というのは基本的に彩度を落としていることが多いのですが、『野火』は不自然なぐらいに鮮やかです。勝手な推測ですが、「記録映像っぽさ」を出すために彩度を落とした『プライベート・ライアン』のような作品とは違って、『野火』では「ただの遠い過去の話にはしたくない」という意図があったのではないでしょうか。あとは、ジャングルの緑とその中で人間がドンパチやってる愚かしさの対比かな。

 『野火』は塚本監督の自主映画といっていい作品です。なので、予算はそれほどかかっていません。スタッフもツイッターなどで集め、小道具や衣装も手作りで用意したそうです。それにしては異常に迫力があるのがこの映画のすごいところです。途中で『プライベート・ライアン』の冒頭を彷彿とさせる凄惨な場面があるんですが、ここでの過剰なまでの人体損壊描写は観る人によってはトラウマになるほど過激です。

 あと、ジャングルのそこかしこに転がってる死体の描写が妙にリアルです。特に日本映画は死体の描写がクソぬるいことが多いと思うんですけど、『野火』に出てくる死体は本物っぽい。予算がない中、どうやってこの本物っぽさを出したのだろうと不思議に思います。

 この映画は、全くスカッとしません。基本的にやられる一方ですし、ヒーローみたいな人も出てきません。感動の涙も流れません。敵を倒すとか倒さないとか以前に、兵士たちは自分たちが生き延びるので精一杯です。語弊があるかもしれませんが、塚本晋也版『野火』にはドラマ性すらありません。むしろ、安易なドラマツルギーを排しているようです。人の体が血と臓物を詰め込んだヤワな肉袋であり、腐ればウジがわき生きながら少しずつ食べられていくという事実をこれでもかと叩きつけてきます。

 塚本監督はフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』がお好きだそうですが、『野火』はその予算縮小版ともいえるかもしれません。登場人物と作り手の狂気がリンクしていくという点において、この2作は共通していると思います。塚本監督はコッポラほどメタメタな状態には陥っていなかったかもしれませんが(ほぼ自主制作な分、逆に正気を保てたのかも。マーロン・ブランドみたいなめちゃくちゃな役者は『野火』の現場にはいなかっただろうし)。

 もう一度技術的なところに目を向ければ、この映画にものすごく貢献してるのは「音」でしょうね。自主映画とかに少しでも関わったことのある人ならわかると思いますが、音の影響ってすごくでかいんです。画が少しぐらいチープでも音に迫力があると補完できる。『野火』では、たとえば機銃掃射を受けるシーンなんかで音響の効果が如実に出てます。あとは…ネタバレになるから控えよう。

 とまあクソみたいな駄文をつらつら書いてきましたが、とにかく『野火』が今夏必見の映画であることは疑いようもありません。気分が悪くなったとかめしが食えなくなったとか、そんな苦情はいっさい受け付けません。是非、劇場で大画面で観てください。それから、お金がないとかハリウッドと比較するなとか言い訳する業界の人たちはこの映画を1恒河沙回ぐらい観た方がいいと思います。ま、大資本だとその分余計な口出しをしてくるクズとかが多くなるみたいなんで、一概に作り手だけの責任ではないんですけど。

野火 (新潮文庫)

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塚本晋也×野火

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野火 [DVD]

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市川崑版。