ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

第94回「『海街diary』を観た」

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日本/128分

監督:是枝裕和
原作:吉田秋生
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
編集:是枝裕和
音楽:菅野よう子
出演:綾瀬はるか長澤まさみ夏帆広瀬すず樹木希林大竹しのぶ風吹ジュン ほか

まぶしい光に包まれた夏の朝、鎌倉に住む三姉妹のもとに届いた父の訃報。15年前、父は家族を捨て、その後、母(大竹しのぶ)も再婚して家を去った。父の葬儀で、三姉妹は腹違いの妹すず(広瀬すず)と出会う。三姉妹の父を奪ったすずの母は既に他界し、頼りない義母を支え気丈に振る舞う中学生のすずに、長女の幸(綾瀬はるか)は思わず声をかける。「鎌倉で一緒に暮らさない?」しっかり者の幸と自由奔放な次女の佳乃(長澤まさみ)は何かとぶつかり合い、三女の千佳(夏帆)はマイペース、そんな三姉妹の生活に、すずが加わった。季節の食卓を囲み、それぞれの悩みや喜びを分かち合っていく。しかし、祖母の七回忌に音信不通だった母が現れたことで、一見穏やかだった四姉妹の日常に、秘められていた心のトゲが見え始める―。(公式サイトより)

※少しでもネタバレが嫌な人は読まない方がいいです。大したことはいってませんが。

 最近、いい映画というのは、なんでもないようなシーンで泣ける映画なんじゃないかと思ってます。この『海街diary』がまさにそんな作品で、なんでもないような4姉妹の日常を切り取った一コマ一コマにぐっときてしまうのです。「えっ普通そこで泣く? 他にあったでしょ、最後の方のアレとかさあ」って言われるのは百も承知なんですけど。あとあんまり「なんでもないような」っていうと某虎舞竜みたいでアレですが。

 そうそう、「アレ」と言えば4姉妹の長女・幸は何度か「アレでしたら」みたいなことを言うんです。しっかり者なんだけど、「アレ」っていうちょっと曖昧な表現をすることもある。次女の佳乃の恋愛をとやかく言うくせに自分は不倫してるってとこにしても、完璧なようでいてどこか危うい部分を持っているのが幸なんです。で、「アレ」にもどりますけど、この言葉を終盤の会話シーンですずが使うんです。長女から末の異母妹に口癖がうつってるんです。ささいなセリフで、いびつだった4姉妹がどんどん本物の家族になっていくのがわかるんですね。

 ささいな表現といえば、初めて4姉妹が砂浜に行くシーンで、他の3人が裸足になっているのに対して、幸だけがスニーカーを履いています。↑の写真では脱いでますけどね、これは宣伝用のスチルだから細かいこと言うなやハゲ! でまあとにかく、彼女だけが靴を履いているということで、一家の主というか母親のようなポジションに立っていることを匂わせる。

 それから、すずと3姉妹が初めて対面し、見晴らしのいい場所に行くシーン。このシーンでは「きれいね」みたいなセリフを役者に言わせておきながら、肝心のその景色のショットになかなか進みません。凡庸な演出家だとまず景色を写してから俳優にセリフを言わせると思うんですけど、この映画ではずっと姉妹を写していて、その会話が終わったところ、このシーンのラストカットでようやくぱっと景色に切り替わるんですね。この焦らしプレイ、最高じゃないですか。そしてこの「見晴らしのいい場所」というキーワードがまた終盤で生きる。

 あと、すずが自転車の後ろに乗って走るシーン。背後から自転車を追うカメラが素晴らしいし、左右に咲いている桜も美しすぎる。CGで足したんちゃうかと思うぐらい。それでですね、気持ちよさそうに空を見上げるすずの髪の生え際に桜の花びらが1枚落ちてきてそのままそこに留まるんですよ。何この奇跡、バカなの? 死ぬの? 今そのシーンを思い出しただけで泣けてきたわ。

 4姉妹の中で誰が一番良かった? と問われると、それは広瀬すずでしょうね。ロリコン的な意味じゃなくて、彼女の輝きがパネーんですよ。綾瀬はるかはあまりよく知らないんですけど、『世界の中心で、愛をさけぶ』(映画そのものはともかく)の長澤まさみとか『天然コケッコー』の夏帆が持っていた輝きがこの映画の広瀬すずにはあるんですね。それから彼女がサッカーをするシーンがまた異様にうまいんです。経験者かと思うぐらいに動きがこなれている(と思う)。なんなんだこの若くして万能選手はっていう。あ、原作にある扇風機のシーンを再現してたのは意外でしたね。ストーリーの進行上必要ないっちゃないんですけど、妙に記憶に残るシーンで。あそこをちゃんと撮ってくれる是枝監督、ホントわかってるなあ(上から目線)。

 綾瀬はるかについて。彼女を女優としていいと思ったことって一度もなかったんだけど(かといってダメだと思ったこともない)、この映画の彼女は実にいい。キャストが発表された時、“え、綾瀬はるか長澤まさみが逆じゃね?”って思ったんですよ。でも是枝監督が決めたんだから大丈夫だろうって思ってたら、実際大丈夫だったんですね。これまでどっちかというと抜けた役が多かった綾瀬はるかが、本当にこの映画ではキリッとして見える。彼女の魅力の引き出し方を知っている監督がこれまでいなかっただけなんじゃないか、とすら思えます。

 4姉妹以外のキャストに目を向けると、やはり樹木希林大竹しのぶが一緒に映るカットの恐ろしさ贅沢さについて書かないわけにはいきません。どちらも、単体でいても異様な迫力なのに一度に襲ってくるとか…。樹木希林大竹しのぶは人を殺さなくても怖い。出てきた瞬間に「殺られる!」と思うぐらいのインパクトがある。 

 是枝監督の前作『そして父になる』に続いて、今回も撮影は瀧本幹也が担当しています。実は僕、瀧本氏の「SIGHTSEEING」って写真集を買ってサインを貰ったことがあるんですよね。

SIGHTSEEING

SIGHTSEEING

 

  今の日本の撮影監督は近藤龍人か瀧本幹也かってぐらい、今回もいい仕事をされています。『海街diary』はフィルムで撮っているのだけど、色調とか光の 捉え方がやはりデジタルとは違うなと思いました。どっちがいい悪いではなく、この物語にはとても合っていたと思います。あと、カメラがやりすぎない程度に 控えめに、控えめに動くんですよね。某アイドルグループの映画のカメラが無駄に動きまわってたのとは大違い。

 で、滝本氏自ら記録した映画の写真集も出ていて、買ってしまいました。

写真集 「海街diary」

写真集 「海街diary」

 

 女優たち目当てに見るような写真集ではなくて、どちらかというとアート寄りです。映画でも思いましたが、鎌倉の風景の切り取り方とか、さりげなくて本当に素敵です。色味もフィルム独特の淡い感じ。

 僕のお気に入りはこの1枚。

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 「ザ・女たち」って感じ。

 カンヌでは無冠に終わりましたし「小津の模倣」とか言われてあまり評判も良くなかったようですが、そんなんどうでもいいです。俺はこの映画がすごく愛おしい。と声を大にして言いたい。

 今年はこれまで『フォックスキャッチャー』『アメリカン・スナイパー』『セッション』とアメリカ映画が僕の中でベスト3を占めてたんですが、『海街diary』はこのどこかに食い込んできそうです。少なくとも今年観た日本映画では断トツでベストかな。って、忙しくて洋画も邦画も観れてないんですけど。