読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

第78回「『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を観た」

f:id:q050351:20131002124028j:plain
The Imitation Game/イギリス、アメリカ/115分

監督:モルテン・ティルドゥム
原作:アンドリュー・ホッジス
脚本:グレアム・ムーア
撮影:オスカル・ファウラ
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:ベネディクト・カンバーバッチキーラ・ナイトレイマシュー・グードチャールズ・ダンスマーク・ストロング ほか

1939年。ドイツ軍と戦う連合軍にとって、敵の暗号機“エニグマ”の解読は勝利のために欠かせない最重要課題だった。しかしエニグマは、天文学的な組み合わせパターンを有しており、解読は事実上不可能といわれる史上最強の暗号機だった。そんな中、イギリスではMI6のもとにチェスのチャンピオンをはじめ様々な分野の精鋭が集められ、解読チームが組織される。その中に天才数学者アラン・チューリングベネディクト・カンバーバッチ)の姿もあった。しかし彼は、共同作業に加わろうとせず、勝手に奇妙なマシンを作り始めてしまう。次第に孤立を深めていくチューリングだったが、クロスワードパズルの天才ジョーン(キーラ・ナイトレイ)がチームに加わると、彼女がチューリングの良き理解者となり、周囲との溝を埋めていく。やがて解読チームはまとまりを見せ始め、エニグマ解読まであと一歩のところまで迫っていくチューリングだったが…。(allcinemaより)

 TOHOシネマズ川崎にて鑑賞。14(トーホー)の日で一般料金が1,100円ということもあってか、それともカンバーバッチ効果なのか、客席はほぼ満員でした。

 英国系男子として人気のベネディクト・カンバーバッチが主役を務めていますが、実は彼の主演作を観るのは今回が初めてです。『それでも夜は明ける』では脇役だったし。正直に言うと、そんなにかっこいいかな…と思ってたんですよね。馬面だし。

 でも『イミテーション・ゲーム』を観て思いました。彼は「守ってあげたくなる」タイプの男性なんじゃないかと。本作でも、彼が涙をいっぱい目にためた場面で、ユーミンの「守ってあげたい」が脳内再生される女性は少なからずいるんじゃないでしょうか。

 さて、作品そのものの感想に。正直に言って、僕はそれほどは期待してなかったんです。まあ60点ぐらいの出来なんじゃないかなあと。実在の人物の人生を丁寧に脚色してるだけのお話かなと思ってました。ナメてました。泣きました。

 乱暴にまとめると、アラン・チューリングの伝記であるこのお話は、「コミュ障の孤独な天才が、他人とつながることを学んでいく」(といってもこれは映画の前半まで)というものになると思います。

 前にも書いたかもしれませんが、僕は「孤独なおっさん」の話に弱いです。この映画の後に観た『幕が上がる』みたいな、あるいは『アベンジャーズ』みたいな、「みんなで力を合わせて頑張る」というタイプの話は、嫌いではないけどあまり深くのめり込めません。

 ただ、この映画の前半では、変人でコミュ障のアランが、エニグマの解読チームと衝突しながらも次第に打ち解けていく様が描かれます。つまり、途中までは「みんなで頑張ろう」系のお話になっているのです。とにかく空気が読めないアランと、衝突するヒュー・アレグザンダー(マシュー・グード)たちの間をジョーンが取り持ち、いつしか彼らの間には強い連帯感が生まれていきます。

 この過程が割りとコミカルに描かれていて、劇場では何度も笑いが起きていました。全体的にはシリアスなお話ですが、こうしたコミカル描写がとても効果的にクッションとして使われているのです。そして、それだけに終盤の展開が哀しい…。

 一度生まれた連帯感は、ある出来事をきっかけにバラバラになっていきます。解読チームそのものは機能を失わないのですが、「人」としての彼らのつながりは空中分解してしまいます。少年時代以来久しぶりに人とつながる喜びを感じていたのに、アランは残酷な現実に打ちのめされていきます。

 「コミュ障がすったもんだの末にみんなとつながることができたよ! 悪者も倒してめでたしめでたし!」ではなく、この映画は、「コミュ障がすったもんだの末にみんなとつながることができた…と思ったけど世の中そんなに甘くなかったよ…」という構造になっているのです。

 終盤、アランがジョーンに吐露するある言葉は、人とつながる喜びを彼が再び見出していた後だからこそ、重く響きます。

 この映画を観ていて、僕は、以前このブログで大絶賛した『フォックスキャッチャー』を思い出しました。

 勿論アラン・チューリングはジョン・デュポンのようにいきなりチャカをぶっ放したりしませんが、「孤独」「周囲に理解されないモンスター」という点では共通しています。さらに言うと、『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイルにしても同様かもしれません。

 クリス・カイルには家族がいましたけど、本質的には彼は孤独だったのではないかと思います。帰国しても、彼の心は戦場に置き去りになっていました。戦友はいましたが、彼らも激しい戦闘で死んだり、最前線から退いたりしていきます。

 アラン・チューリングとジョン・デュポンとクリス・カイルって皆実在の人物なんですよね。そして3人とも、持って生まれた圧倒的な才能(デュポンの場合は「富」だけど)がある。そして、実はもうひとつ共通する要素があるのだけど、それはネタバレにつながりそうなので明かしません。クリス・カイルは違うでしょ? と思う人がいるかもしれないけど。

 さて、話を戻すと、『イミテーション・ゲーム』の魅力はこうした悲劇的な要素だけに終始しません。特に、ヒューとアランの、「ライバルが仲間になる」王道的展開は胸熱です。しかもヒュー役がマシュー・グードなんですよ。『ウォッチメン』のオジマンディアスですよ。『シングルマン』の、コリン・ファースの元カレですよ。そんなマシュー・グードとカンバーバッチのぶつかりあいですよ! 腐女子大歓喜!

 あと、これまで「乳なしシャクレ」としか思っていなかった(本当にすみません!)キーラ・ナイトレイが、この映画ではとても可愛い。なぜなのかはわからないけど…。彼女の魅力にようやく気づきました。

 それから、受賞したのは『グランド・ブダペスト・ホテル』だけど、アカデミー作曲賞候補にもなったアレクサンドル・デスプラのスコア。正直『グランド・ブダペスト・ホテル』の音楽は微塵も覚えてませんが、『イミテーション・ゲーム』のサントラは欲しくなります。

 上述したように、全体的なトーンは暗めですが、ところどころ笑えるところもあり、決して重苦しいだけの映画にはなっていません。時系列をバラバラにしていることで少し混乱するかもしれませんが、大丈夫です。僕の粗末な頭でも大体理解できたんで。アラン・チューリングのことを知らない人は、なるべくググったりしないようにして観に行きましょう。