ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

第72回「『味園ユニバース』を観た」

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日本/103分

監督:山下敦弘
脚本:菅野友恵
撮影:高木風太
音楽:池永正二
出演:渋谷すばる二階堂ふみ鈴木紗理奈赤犬 ほか

ある日、赤犬のライブ中にひとりの男(渋谷すばる)がふらりと現われるや、マイクを奪って歌い出す。その圧巻の歌声に、その場の全員が魅了される。しかし男はそのまま気を失ってしまう。やがて目を覚ました男は何も覚えておらず、完全な記憶喪失状態だった。赤犬のマネージャー、カスミ(二階堂ふみ)は、そんな彼を放っておけず、“ポチ男”と名付けて自宅に住まわせる。そして、何も思い出せないポチ男を赤犬のボーカルに据える。すると、全身全霊で歌うポチ男の脳裏に、苦い過去の記憶がフラッシュバックで甦るのだったが…。(allcinemaより)

 TOHOシネマズ川崎にて鑑賞。

※ネタバレあります!

 僕は山下敦弘監督の作品のファンで、これまで観てきた作品はほぼ全部お気に入りです。前作『超能力研究部の3人』も2014年ベスト3に挙げるくらいですしね。

というわけで、今回も詳しいストーリーもよく調べず公開初日に観てきたのですが。

 実は一抹の不安がありました。ストーリーは調べなかったくせにスタッフは一応確認していて、その時に脚本が全く知らない人だったんですね。これまで山下監督と組んで多くの傑作を繰り出してきた向井康介さんでもなければ、いまおかしんじさんでもない。

 今回の菅野友恵さんという脚本家は、デビクロがどうたらこうたらとかいう、映画館にて予告編を見ただけで急激な眠気に襲われたふりをし、できれば『MIND ASSASSIN』のかずいに記憶を消してもらいたくなるような作品を手がけた方です。

 でも、デブクロがうんちゃらかんちゃらとかいう作品の時が悪かったからといって今回もひどいとは限りません。例えば先述の向井康介さんが関わった『ニセ札』だって一部でクソミソに言われてましたしね。山下敦弘監督なんだから、信頼して観に行こう。そう思って劇場に出かけました。

 序盤〜中盤は特に問題ないと思います。特に序盤の不穏な空気なんかはとても良いです。渋谷すばるさんだけ目当てに来た若い女の子たちがドン引きしそうな殺伐とした雰囲気を感じます。「オフビートな笑い」のイメージばかりが先行する山下監督ですが、実は『マイ・バック・ページ』や『松ヶ根乱射事件』という作品で、ユーモアだけの監督ではないことは証明してるんですね。このあたりの不穏な演出は、大阪芸大の先輩にあたる熊切和嘉監督のタッチともちょっと似ているかもしれません。

 主演の渋谷すばるという人について僕はほとんど知らなかったんですが、あんまりジャニーズっぽくないというか、もともとこういうイケメン狂犬(語呂悪)みたいなポジションで売ってる俳優に見えました。少し伸びた坊主頭で歌うシーンは甲本ヒロトっぽいなと思いました。主役に据える存在感は十二分にある人だと思います。

 二階堂ふみは、やはりさすがですね。僕は生まれも育ちも関西人ですけど、彼女の関西弁はほとんど違和感が無かったです。『きょうのできごと』(行定勲)ほどではないにせよ、かなりリアルな関西弁でした。それだけでなく、高校にいかず家業を切り盛りしてボケた祖父の面倒も見ているせいなのか「大阪のオカン」みたいな風格すら漂わせるカスミという役を見事に演じきっています。

 鈴木紗理奈が演技をしているのは『ケイゾク』以来でしたけど、彼女もハマってました。こういう大阪のちょい綺麗なオバハンいるなあ(メイクの効果もあると思う)って感じでとてもリアル。赤犬の面々はもう存在自体が濃いので、わらわらと画面に写ってるだけでも面白い。ちなみに僕は高校生の頃に大阪で偶然彼らのライヴを見たことがあります。その時も「なんか濃い人たちやなあ」と思ったんですけど、全員がおっさんになってなお一層濃くなってました。

 とまあ、悪くないんです。演技も演出も悪くないと思う。でもこの映画の最大の欠陥は、やはり脚本にあるんじゃないでしょうか。

 バットで頭を殴られたことで記憶喪失になっていたポチ男が記憶を取り戻し、赤犬のワンマン・ライヴにも参加しないことを決めてカスミと袂を分けた後の展開です。ポチ男は記憶喪失になる前に関わっていたヤクザ(?)のタクヤに会いに行き、「仕事をください」と言います。もちろんその仕事は良からぬ仕事でしょう。

 ライヴ当日、赤犬は当初予定していたポチ男の代わりに、元々のヴォーカルを呼んで演奏を始めます。てかあんだけポチ男フィーチャーしたライヴ告知ポスターまで作ってたのに、本来のヴォーカルが出てきても客が何の違和感も持たず盛り上がってるのも気になるんですが…まあいいや

 赤犬のマネージャー兼PAを務めるカスミはライヴを見ながらも、心ここにあらずです。ライヴが問題なく進む中、彼女はついにPA卓から離れてしまいます。ここもね、あんた自分の仕事放り出してどうすんの…と思ったんだけど、まあいいでしょう

 その頃ポチ男は、タクヤ配下のチンピラたちと共に、とあるビルの屋上にやってきます。そこには椅子に縛られた男の姿が。しかし、その男は人形でした。そこにはタクヤが社長を務める怪しい会社のポケットティッシュがあり、「ごくろうさん」だか「おつかれさま」だかなんだか、そういう言葉が書いてあります。要は、ポチ男はまたもタクヤに裏切られたわけですね。仲間だったはずのチンピラたちが凶器を持ってポチ男に迫ります。

 えっとさ、ここも気になるんですよ。タクヤが言った「仕事」ってなんだったんだろう。椅子に男をしばりつけてたから、拷問? それとも殺害? それにしてはやたらとチンピラが沢山いましたよね。勿論チンピラが沢山いるのはポチ男を襲うためですが、あんなにいっぱいいる時点でポチ男は「怪しい」って思いませんかね? まあ、ええけど。

 で、話は戻ります。チンピラに囲まれて絶体絶命のポチ男。どうするポチ男!? その時、屋上入口からカスミが突然バットを持って現れ、ポチ男の頭をどつきます。えっどういうこと? …まあ、ええかな。

 ポチ男が目を覚ますと、そこはライヴ会場の楽屋。木製バットで殴られたのに血はほとんど出てないし、普通に起き上がります。そんで、ライヴして映画終わり。わー。パチパチ。

 あのー、まずカスミはポチ男の「仕事」の場所をどうやって知ったんでしょうか。Twitter見てたら、実はあの「仕事」の場所はライヴ会場のビルの屋上だった、とかっていうツイートを見たんで、まあそうだとして、カスミはどうやって屋上でポチ男が「仕事」してることに気づいたんでしょうか? 勘ですか?

 それから、ポチ男をどついて彼を楽屋まで引きずっていくにしても、ポチ男を狙ってたチンピラどもに絶対妨害されますよね?

 例えば、何らかの理由でポチ男の「仕事」を知ったカスミが赤犬のメンバーに「おっさんども、行くぞ!」と号令かけてみんなで屋上に行き、チンピラどもをぶちのめしてポチ男を助けるとかならわかるんです。そこまで赤犬のメンバーが喧嘩強いかどうかはともかく、大所帯のバンドだから数はいるし。これなら、多少強引ではあるものの説得力は増すでしょう。その後全員ボロボロになりながらもライヴやって終わるとかさあ。展開的にも胸熱だし。

 でもポチ男が目を覚ましたタイミングでは赤犬のメンバーはステージを一段落終えて、裸で楽屋に戻ってくるだけなんです。

 しかもですよ。せっかく復帰した本来のヴォーカルさんがね、ポチ男がいるの見たら突然ステージに戻って客席にダイブして、のびてるんです。

ハァ!?

 なんなの、この意味不明な行動は。そもそもね、このヴォーカルさんは別に悪いことしたわけでもないのにいきなりポチ男に殴られてマイク奪われたり、正式なメンバーだったのに突然どこの馬の骨かもわからん奴にカスミのゴリ押しでヴォーカルの座奪われてるんですよ。そんで赤犬の他のメンバーもみんな何も言わないんですよ。普通言うでしょ、こいつとずっとやってきたんやから、そんな急に首すげかえられるかいって。入院するような怪我ならまだしも歌うことができなかったわけではないし。なんなのこの冷たいメンバーたちとマネージャーは。

 わかった、ヴォーカルさんはアレだ、せっかく自分が復帰したのにポチ男が戻ってきたから「どうせ俺なんか…」って自殺を試みたんだ。ひでえ話じゃねえか。

 とにかく、この映画は途中までは良いのに、クライマックスで何もかも台無しになってる作品だと思います。それはもちろん脚本の問題だと思います。ていうかこんな脚本でGOサインが出たこと自体が驚きですよ。

 もしかしてアレですか? この映画は途中からファンタジーなんですか? だから野暮なつっこみはやめろって? そうかそうか。そういうことなら、まあ…ええわけないやろ。

 この作品、大阪が舞台で赤犬も出てる(赤犬大阪芸大の人たち)んだから、やっぱり脚本は向井康介さんに書いてほしかったです。…でも、今向井さんって留学中らしくて、そのせいで関われなかったのかと。

 少なくともこれまでの山下監督作品では断トツのワーストですね。とても好きな監督なのでこんなこと書くのは心苦しいですが…。

 でもね、そんなんどうでもええねん、渋谷すばるがかっこよかったらそれでええねん、ていうんなら全然アリです。細かいこと考えずに映画館行ってください。

 ちなみに映画のエンディングで流れるのは渋谷すばるさんの「記憶」という曲ですが、個人的にはこっちの曲でもいいと思います。

なめとんか。