第51回「『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』を観た」
原題 Inside Llewyn Davis
監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、ジャスティン・ティンバーレイク ほか
1961年、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ。音楽に対してだけは頑固で、それ以外のことにはまるで無頓着なしがないフォーク・シンガーのルーウィン・デイヴィス。金も家もなく、知人の家を転々とするその日暮らしの日々を送っていた。そんなある日、泊めてもらった家の飼い猫が逃げ出してしまい、成り行きから猫を抱えたまま行動するハメに。おまけに、手を出した友人の彼女からは妊娠したと責められる始末。たまらず、ギターと猫を抱えてニューヨークから逃げ出すルーウィンだったが…。
iTunes StoreのレンタルにてiPhone 6 Plusで鑑賞。
この映画は前から観なきゃなと思ってました。評価が高いとか、コーエン兄弟の作品だからとかってのもあるんですけど、個人的には、何よりもオスカー・アイザックとキャリー・マリガンが『ドライヴ』以来再び共演してるってことが大きくて(『ドライヴ』は筆者の2012年ベスト1映画)。
で、最初はこの二人がまた夫婦役を演じてるって聞いてたんですけど、それは勘違いでした。オスカーは『ドライヴ』でライアン・ゴズリング演じる間男に嫁取られそうになってたけど、今回は自分が間男側です。
でも彼が演じる主人公は『ドライヴ』のドライヴァーみたいにクールじゃなくて、かなり情けない男です。相手役のキャリーも今回は健気な待つ女じゃありません。彼女が演じるジーンという女性は、ルーウィンをクソミソにディスります。
その悪口の内容がバラエティとウィットに富んでいるというか、ヤッちゃったからには自分だってある程度その気だったろうに、「なんでゴム2枚重ねにしとかなかったんだよボケ」とか「全ての生物に触れるな」とか、ルーウィンに反撃の隙を全く与えません(まあルーウィンも反論する気無さそうだけど)。未知やすえなみの迫力があって、笑いそうになりました。ひとしきり罵倒したあと「やだ、怖い〜」って豹変したら完璧だったんですけどね。誰もそんな完璧求めてませんが。
ストーリーそのものは、売れないルーウィンがなんとか活路を見出そうとするんだけどとにかくツイてなくて散々な目にあって…という話で、あまり起伏はありません。途中、ニューヨークからシカゴに向かうシーンがあって、そこはちょっとロード・ムーヴィー風です。
ここでルーウィンは、ギャレット・ヘドランド演じる極端に無口なキャラと、ジョン・グッドマン演じるジャズマンらしい男と車を相乗りすることになります。ジョン・グッドマンってヤク中キャラのイメージが強いんですけど今回も懲りずにヤク中でした。本当にありがとうございました。
東京→大阪行きの高速バスの中で観ていたので、シカゴへ向かうルーウィンと自分がなんとなくダブって、しんみりしてしまいました。一緒にしちゃいけないけど、自分もルーウィンに通ずるところのあるダメ男なので。何をやってもうまくいかない感じが他人事とは思えません。そして俺もゴムは二枚重ねにしようと思いました。相手いないけど。
ただ、音楽をやっている時のルーウィンは私生活のやるせなさから解放されていて、演奏中の彼は一種孤高の人に見えるんです。でも周囲は彼の音楽を認めない。「金にならない」と言って彼は切り捨てられてしまう。そして、再びニューヨークで自分の信じる歌を歌う。
最後に、彼のスタイルに影響を受けたと思しき「ある若者」がステージに上がります。ルーウィンは、その若者の大ブレイクをどんな思いで見たのかなあと想像させられたところで、この映画はある「繰り返し」を経てプツリと終わります。
トータルの印象として、退屈はしなかったけど、正直そんなに面白い映画とも思いません。この時期の音楽シーンのことに明るかったりするともっと面白いのかもしれませんけど。それにコーエン兄弟のことですから、単に「脚光を浴びられなかったミュージシャンの悲哀」だけを主題に映画を作るとは思えないのですが、アホな俺にはそこまで深くこの映画を理解する素養はありませんでした。やっぱり俺は『ノー・カントリー』が一番好きですね、コーエン兄弟だと。
でもやっぱり、キャリー・マリガンがオスカー・アイザックをクソミソに言うところだけは文句無しに面白かったです。
ちなみにこの映画、猫が結構出てくるんですけど、猫を見ると自動的に語彙が「かわいい」だけに限定されてしまうような人が観てもあまり幸せにはなれないと思います。