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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

第44回「『6才のボクが、大人になるまで。』を観た」

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原題 Boyhood

監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーンローレライ・リンクレイター、イーサン・ホーク ほか

メイソン(エラー・コルトレーン)は、母オリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とテキサス州の小さな町で生活していた。彼が6歳のとき、母は子供たちの反対を押し切って祖母が住むヒューストンへの引っ越しを決める。さらに彼らの転居先に、離婚してアラスカに行っていた父(イーサン・ホーク)が1年半ぶりに突然現れ……。

※少しネタバレあります。

 TOHOシネマズ シャンテにて鑑賞。

 ようやく観ました。上映館少ないからもうDVDでいいかなとか思ってたんですけど、巷の評判がすこぶるいいのでやっぱり観ておかないと。

 いきなり余談ですが、シャンテって少し客層が独特というか、シネコンの中でも特に映画好きな人が観に来てるってイメージが強いですね。かといって映画オタクというわけではない、裕福で趣味のいい人たちが「今日は映画でも観るざます」とかのたまいながら来てそうな映画館というか。俺みたいなクソ貧乏人がシャンテで観ていいのだろうか、と恐縮してしまいます。

 さて映画ですが、オープニングからツカミはOKという感じでした。ヤー!

 コールドプレイの「イエロー」が流れて、芝生の上に寝転がる幼い主人公メイソン。前から知ってたけど映画で使われてるのを聴いて「いい曲だな」と改めて思うことってありますよね。コールドプレイはフジロックで観たライヴがクソつまんなかったんで過小評価してたんですが、やっぱりいい曲だなあと思いました。そのほかにもキャット・パワーとかアーケード・ファイアなど、インディーロック好きな人にとっては美味しい選曲でした。

 メイソンの家族は端から崩壊していて、お父さんのイーサン・ホークはアラスカに行っています。といってもマグロ漁船か蟹工船に乗っているわけではなくて、何してたんだかはちょっと忘れましたけど、このお父さんが基本的にすごくフラフラした人です。そしてお母さんもまあ、なんとも微妙な人です。かなりのだめんずうぉーかーで、とばっちりを受ける子どもたちがグレないのが不思議なぐらい。

 特に二人目のアル中旦那。あの食卓が凍る感じとか、自分の家庭を思い出しました。うちはあそこまでひどくなかったですけど、父と母が喧嘩した時に父がテーブルを蹴るんですね。すると、醤油差しが落ちてカーペットに醤油がだーって垂れるんです。俺は自分がやったわけじゃないから放っておいたんですけど、父親が舌打ちするんで結局それをテーブルの上に戻したり。てめえで皿割っておいてキレてるあのアル中旦那見てて、自分が経験した嫌な記憶が蘇ってしまいました。

 この映画にはそういう家族がらみの嫌な経験とかおかしな経験の「あるある」ネタがぽつぽつ出てきます。例えば、監督の実娘ローレライ・リンクレイターが演じてるメイソンの姉サマンサ(実際にはメイソン役のエラー・コルトレーンより3ヵ月早生まれなだけ)が小さい時にはウザいぐらい元気でお茶目なのに、思春期に入るとシラーっとしてるのとか。

 まあこれは、ローレライが撮影に飽きてきていたのももしかすると関係してるのかもしれませんが。「もう飽きたから私の役死んだことにして」って監督に言ってたらしいですしね。ひでえ。

 本作が面白いのは、時間の経過をいちいち説明せずに、カットが変わったらいきなり子どもたちが成長していることです。この感覚って、親戚の子どもがいつの間にかでかくなってて驚くあの感覚ですね。自分がガキの時は「大きくなったなあ」とか言われると「当たり前だろ」って思ってたんですけど、逆の立場になるとつい「大きくなったなあ」って言いそうになるんですね(多分、相手もやっぱり「当たり前だろ」と思ってる)。子どもの成長ってそのぐらい感慨深いものがあって、この映画はそれを2時間半で見せてくれるわけです。

 ただ、お母さんが「こんなに早く大きくなっちゃうなんて」って言った時には、「あんたもな」って思っちゃいましたけどね。パトリシア・アークエットが12年(2時間半)の間にどんどん巨大化していく様は、メイソンやサマンサの成長と同じぐらいミラクルでした。イーサン・ホークはあまり老けないのに。

 イーサン・ホークのお父さんですが、どうやら彼氏ができたらしいサマンサに「いいか、避妊はちゃんとしなきゃいけないぞ。コンドームを着けるんや」と、いらんことをいちいちアドバイスするシーンが痛々しくて良かったです。お姉ちゃんは「もう、勘弁してよ…」といった顔をしてるんだけどお父さんがちょっとしつこくて、キレられるんじゃないかと思いました。

 筆者は男だし子どもがいてもおかしくない年齢ですから、やっぱりこのお父さんに感情移入して観ていました。だから、彼のやることなす事に一喜一憂してしまいましたね。久々に会って色々一方的に話すんだけど姉弟が黙っているとことか、あーちょっと黙った方がいいんじゃない、子どもたち白けてるよとハラハラしたり。

 でも最終的には、このお父さんもお母さんもそんなに悪い人たちではないんです。二人ともいろいろとダメな部分はあるけど、子どもたちのことを愛しているのは映画を見ればちゃんと伝わってきます。子どもができたからすぐ親になれるわけじゃない。間違ったり迷ったりして、子どもと一緒に親も傷つきながら成長していく。だからこの映画はメイソンだけの成長物語ではないのだと思います。

 本作が良いのはこれでもかと感動させる作りを避けているところで、例えば最初の引っ越しの時に、メイソンと一緒にエロ本呼んでた男の子が自転車でちょっと追いかけてくるんですけど、あれをさらっと流していたのはよかったですね。日本映画ならメイソンが車から手を力いっぱい振ったりとかっていうありがちな演出になってたと思います。

 アル中旦那の連れ子とはあれっきりっていうのも、かなりドライだなと思いました。現実ってあんなもんだと思います。あの後どうなったんだろう…あっちではものすごくダークなストーリーがあったりして…とか思ったり。親父刺し殺すとか、盗んだバイクで走り出すとか、ラッパーとしてデビューするとか。

 最後にトリビア的なネタを。お父さんが乗ってたGTOは監督の私物だそうです。それから、12年の間にもし監督が死んだらイーサン・ホークが代わって監督を務める予定だったこと。最初は「Twelve Years」というタイトルも候補にあったが「Tweleve Years A Slave(邦題『それでも夜は空ける』)」とかぶるので「Boyhood」にしたこと。オースティンにいたストリート・ミュージシャンはエラー・コルトレーンの実の父親であるということ。

 この作品、方方で賞をとったりノミネートされているのでアカデミー作品賞受賞もあり得るかもしれません。ノミネートは間違いなくされると思います。そしたらもっと上映館数増やして再上映すんのかなあ、やっぱり。