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ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

第28回「『たまこラブストーリー』を観た」

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DVDにて鑑賞。

監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
声の出演:洲崎綾、田丸篤志、金子有希、長妻樹里 ほか

高校3年生になった北白川たまこ。頭の中は商店街と家業である餅屋のことばかりだが、ある日、仲のいい友人たちが将来について真剣に考えていることを知る。そのころ、たまこの家の向かいに住む同級生で幼なじみの大路もち蔵も、ある決意を固めていた。周囲の人たちの変化を感じ、たまこもまた少しずつ心が揺れ始めていた。

 この『たまこラブストーリー』、封切り後やけに評判がいいので気になっていたのですが、色々忙しかったりして結局観に行けなかったのです。映画館で観たかったなあとちょっと後悔してます。

 さて、本作は『けいおん!』や『涼宮ハルヒの憂鬱』で有名な京都アニメーション(略して京アニ)が制作していたTVアニメ『たまこまーけっと』のスピンオフ作品です。

 一応筆者は『まーけっと』の方をまずざっと観たのですが、正直に言ってあまり良い印象は無かったです。『まーけっと』は、主人公たまこと、どこかの南国からやってきた言葉を喋る鳥「デラ・モチマッヅィ」との出会いを中心に、彼女が住む商店街の日常を描く作品でした。

 ですが、筆者としては『まーけっと』は何がやりたいのかよくわからないというか、散漫な印象を受ける作品に思えました。「言葉を喋る鳥」デラのキャラと、日常系といってもいいような他愛ない商店街のストーリーがどうにもうまくマッチしていないように感じたのです。

 もっと正直になります。「この鳥、要らなくね?」というのが本音でした。

 で、『ラブストーリー』にはデラは実際登場しません。デラは元々使えていた南国の王家(このあたりの姫を探すどうこうの話も実にどうでもよかった)に帰ってしまった後という設定です。

 なので、『ラブストーリー』からはファンタジー的な要素は消え、タイトルそのもののリアルな高校生の恋愛が描かれることになります。

 映画の前半は、たまこに想いを寄せるもち蔵主体に話が進みます。東京の大学に進学することを考えているもち蔵は、たまこに告白しようとしますが、ヘタレなのでなかなか思い切れません。ですが、ふとしたきっかけに機会を得て、男らしく「好きだ」と彼女に伝えます。

 この告白シーンは、ロングショットで捉えられた二人とそれを包む夕焼けに照らされた川の背景が非常に美しいのですが、筆者がぐっとくるのはもち蔵が告白をした次の瞬間のたまこの行動です。

 川に落ちそうになったたまこの手を掴んだもち蔵はその勢いで彼女に告白するのですが、その直後、たまこはもち蔵の手を振りほどいてしまうのです。この演出は地味なようで相当効きます。この瞬間のたまこの表情のとまどい。

 これまで「いかにもアニメのキャラ」だったたまこが、血肉を与えられた一人の女の子になる瞬間です。この瞬間のために、TVシリーズでは敢えて彼女をどこか人間味のないキャラにしていたのではないかと思うほどです。

 そして取り乱した彼女はもち蔵と自分の鞄を置いて商店街に一人で帰ってきます。その時、いつも挨拶していた商店街の人たちは彼女の視界に明確な像として映りません。ぼんやりとして、それでいて色鮮やかな心象風景が描写される中、たまこは帰路につきます。ここの演出は素晴らしいです。山田尚子監督、京アニの凄さを見せつけられる場面です。意味合いは違いますが、夏目漱石の『それから』のラストをも思わせます。

 でもたまこはそれをまともに受け取ることができません。それは彼女がこれまで生きてきた世界が変わることをも意味するからです。高校3年になって友人たちもそれぞれの進路を考え、もち蔵は東京に行き、そして自分のことを異性として「好き」だと言う。彼女は変化を恐れます。

 そして後半は、視点がもち蔵からたまこのものに変わります。彼女はとても「たまこらしくない」表情を浮かべるようになります。何をしても楽天的だった彼女が、事あるごとにため息をついてうつむき、バトンをうまくキャッチできないことに落ち込みます。

 この辺りのメタファーは実にわかりやすく、要はもち蔵を受け止められない(受け止めるのが怖い)ことが、バトンをうまく受け止められないこととつながっているのです。彼女はもち蔵に告白されることで初めてスイッチが入り、自身ももち蔵を強く意識し始めます。家業の餅屋の手伝いをしている時に「もち」の後に必ず「蔵」とつけてしまうことで、ユーモラスに彼女の戸惑いと変化が表現されます。

 告白した後のもち蔵の気持ちは後半ではあまり出てこなくなります。彼は何か吹っ切れたように、友人とはしゃいだりしています。これまでたまこのことを意識しまくっていたもち蔵と、そんなことはつゆ知らずあっけらかんとしていたたまこ。告白後二人の関係は逆転するのです。

 もち蔵はそれまでの関係が壊れることを恐れず行動しました。もち蔵は一歩先に踏み出した。友人たちもそれぞれの人生の新しい局面に踏みだそうとしている。たまこはどうするのか。それは映画を観てのお楽しみということで。

 欲を言うと、もう少し尺を長くして、たまこに友人以上の想いを抱いているみどりの葛藤を少し描いてほしかった気もしますが、本作はアニメファンのみならず、かつて高校生だった大人、現役高校生、これから高校生になる人(それって要は全員じゃねーか)全てに観てほしい名作です。粗製乱造される糞みたいな漫画実写化恋愛ものよりよっぽど中身がある作品です。

 まあ筆者は高校の時こんなピュアじゃなくてエロいことばっか考えてましたけどね。

 あ、たまこともち蔵の背景を風船が飛んでるシーンはなんか『わたしはロランス』を連想したんですけど、偶然ですかね。