ぼくは性格が悪い

バカのくせに映画の感想とか書くブログ

『ナイスガイズ!』を観た

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 監督は『リーサル・ウェポン』の脚本を手がけたり、実は『プレデター』でプレデターに腎臓ぶっこ抜かれて殺されるメガネの役を演じていたりするシェーン・ブラックです。ちなみにこの人はオリジナル版『プレデター』の続編(いや、『プレデター2』てのがあるんだけどあれとはまた別の続編らしい。ややこしい)の監督も務めています。2018年公開なので、まだまだ観れませんが…。それにしても『プレデター』のときは細身のイケメン風なのに、今は恰幅がよくなっちゃいましたね。あと彼は『アイアンマン3』の監督でもあります。

 主演はラッセル・クロウライアン・ゴズリング。それにしてもラッセル・クロウ、太りましたね。役作り?かと思いましたけどあんなに腹が出てる必要はないだろうっていう。パンチは重そうだけど動きがにぶそうで、こんなんで悪党は倒せんだろうと思ってしまいました。

 ライアン・ゴズリングは『ドライヴ』とは全然違うモードで、とにかくどんくさくて情けない私立探偵役。これまでで一番かっこ悪い役ですが、やるときはやるキャラクターです。予告編にも出てくる、ビビって顔をぷるぷる震わせるシーンとかを見るとコメディの才能も結構ありそうだなと思ってしまいました。

 ストーリーは、ラッセル・クロウ演じるヒーリーとライアン・ゴズリング扮するマーチが、マーチの娘ホリーとともにある女の子を探すうちに巨大な陰謀に巻き込まれて…というまあよくあるパターン。ホリーが年頃の娘のわりには情けない親父に甘いところがあって、もっと反発しそうなもんだなあとは思いましたが、この映画は全体的に良くも悪くもゆる〜い感じなんでまあ細かいことは気にしないほうがいい。

 最近、80sテイストを含んだ映画がなんとなく増えてきてるなあと思ってましたが(『ドライヴ』しかり『イット・フォローズ』しかり『ザ・ゲスト』しかり)、『ナイスガイズ!』は70年代アクションへのオマージュっぽい。ブラックミュージックがふんだんに使われていて、映像の色調も少し乾いてます。ただ、当時を生きた人からしたら「なんだか懐かしい〜」と思うものでも、今の若い人がどう見るのかということは気になりますね。僕にしても、自分が生まれる1年前という設定の話だし。

 80sテイストの作品にしても70年代?のロックが流れる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』なんかについてもそうだけど、「当時青春を過ごしていた人からしたらたまらん」という要素を含んだ映画って客観的に観ると「おっさんおばはんのノスタルジーをくすぐることでポイントを稼いでいる」ようにも思えて、ちょっと複雑な気持ちになります。ただし若い人からするとそれが新鮮に見えることもあるようだし、ドラマ『ストレンジャー・シングス』の監督なんて自分たちがまだ生まれていなかった時代を背景にして作品を作ってますしね。今更ですが、いつのまにか映画もサンプリングの時代になったんだなと改めて思います。

 で『ナイスガイズ!』の話に戻りますが、テンポがいいのでまあ退屈はしません。排ガス規制とポルノ映画という2つの要素の結びつきとかがちょっとわかりにくい感じがしたのは僕がバカだからでしょう。ただ、マーチがある死体を見つけるくだりとかあまりにも都合のいい展開だし、ヒーリーは殺人でつかまるだろ、とか思うんですけど、「まあそこを突っ込むのも野暮か」と思えるような絶妙なゆるさがある。ビールとハンバーガー片手に観たい映画でした。僕は朝イチの回で観ちゃったけど…。

 それにしてもライアン・ゴズリングってよく声が裏返る(裏返してるんだろうけど)人ですよね。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』でも『オンリー・ゴッド』でも声が裏返ってた。

The Nice Guys (OST)

The Nice Guys (OST)

 

 

『グリーンルーム』を観た

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↑の記事でも触れている『グリーンルーム』を観に行ってきました。昨日夕方にNetflixで同じ監督の前作『ブルー・リベンジ』を観て「こりゃ面白い!」と思い急遽シネマカリテに行くことにしたんですよね。

前作は「ブルー」で今度は「グリーン」…どういうことなん?と思うんですが、green roomって英語で楽屋のことなんだそうです。全然知りませんでした。こうなるとRGBという流れで次は『レッドなんちゃら』なんですかね。

『グリーンルーム』の主人公パットを演じるのは去年亡くなってしまったアントン・イェルチン。『スタートレック』シリーズ全然観てないんで彼のことはあまり知らなかったんですが、なかなかいい面構えをしています。

映画の内容はというと、まあシンプルで、ネオナチ集団の巣窟に閉じ込められてしまったパンクバンド“エイント・ライツ”の脱出劇というお話。エイント・ライツはフガジとかマイナー・スレットが好きな人たちなんですけど、ライブでデッド・ケネディーズの「ナチ・パンクス、ファック・オフ!」を歌ってしまって顰蹙を買う。このシーンは笑いました。パットだけ「なんかやばくね?」って感じでキョドってるんですよね。

あまり知らない人に雑に説明しておくと、パンク(ロックもか)って基本的には左翼的な思想を持った人が多いんですけど、一部にとてつもない右翼の人たちがいるんですよ。エイント・ライツのメンバーはデッケネ(デッド・ケネディーズ)をカバーするぐらいだしマイナー・スレットとかフガジが好き(ただしこのあたりを好きな人には右のほうに行ってしまう人もいるらしい)みたいだからまあどっちかつーと左よりなんだろうけど、そんな人がこんなオレゴンの奥地の狂信者たちに閉じ込められたら…本当にありそうなだけに怖い話です。怪物とか目の見えない元海兵隊のジジイに襲われるよりもリアリティがある。

つーかこんなところに紹介したモヒカン野郎のバカさ加減がすごいですよ。しかもこいつ、エイント・ライツのメンバーが散々ドイヒーな目に遭ったというのに終盤ではのんきに掃除機とかかけてますからね。モヒカン×掃除機って、なんだよこの絵面は。こんなん考えつきそうで考えつかないぞ。監督のジェレミー・ソルニエ、こういう微妙なユーモアをぶち込んでくるあたりもにくいですね。

『ブルー・リベンジ』でもそうだったんですが、この監督は人体破壊とか痛みの描写にこだわる人で、見てて「いやーやめて!」となるシーンが何度も出てきます。『ブルー・リベンジ』では足にぶっ刺さったボウガンの矢を抜くシーン(よくある展開だけど、メイクがリアルだし役者の演技がうまいんだ)で悶絶しましたが、今回は腕を白菜のように刃物でざく切りされるシーンがあって「ぎゃああああああああ!!!!!」と歓喜の叫びを上げそうになりました。これね、中途半端に切られてるから嫌なんですよ。ある意味切り落とされるより嫌。しかもこれ、生きて帰ったところで絶対腕の機能を果たしそうにないし…。傷口の見せ方とかも本当にしつこくて、「何回も見せんな!…いやもう一回!」と青汁CMの八名信夫に憑依されちゃいましたよ。

 

 

とにかく全編に緊張感がみなぎっていて、次はどんな嫌なことが起きるんだろうとワクワクさせてくれるという意味で、これは圧倒的に正しいホラー映画。某盲目のジジイが出てくる映画には全然ワクワクしなかったという人もこちらは気にいるんじゃないでしょうか。

前作『ブルー・リベンジ』と比べると少し物語の深みに欠けるかなとは思うし、あんだけ腕ざく切りにされたのに後半やたら元気だな(ざく切りにされた腕の処置がまた雑で笑えるんだけど)とか、いろいろ気になる部分もあるんですけど、週末深夜に新宿の小さな映画館で観るには最高の作品!(ニュアンスわかるだろうか)というのは間違いないです。お客さんも満員で、隣りのカップルが「結構怖かったね〜」と言っていたのが印象的でした。

というわけで早くも今年ベスト5候補の1本が出てしまいました!海兵隊じじいの映画が物足りなかった!という人は是非!(しつこい)。それから前作『ブルー・リベンジ』も素晴らしいので是非!(主人公を演じているメイコン・ブレアは『グリーンルーム』にも出てます)

 

『ドクター・ストレンジ』を観た

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 Blu-rayとかでいいかなと思ってたんですが、知人が「IMAX 3Dでこそ観る価値のある映画」だと言っていたので109シネマズ川崎で鑑賞してきました。

 よく考えたら、ストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチとモルド(ストレンジの兄弟子ポジション)役のキウェテル・イジョフォーは、『それでも夜は明ける』で共演してるんですね。あれはひたすら重苦しい映画だったので、今回この2人がちょっと仲よさげだったのが微笑ましかったです。

 冒頭、ティルダ・スウィントン演じるエンシェント・ワンとマッツ・ミケルセン扮するカエシリウス一味のバトルから始まるんですが、ここでいきなりつかみはOKという感じですね。どうしても『インセプション』を連想してしまうし何がどうなってんだかよくわからなくなってきますが。

 で、このエンシェント・ワンがいきなりめっちゃ強いモードなんでもう誰も勝てねーなこれは、と思ってしまいます。なんかカエシリウスも小物感が漂ってるし。マッツは好きな俳優なんですけど、カエシリウスの意図がなんだかあやふやで、結局どうしたいねんと思ってしまいました。愛するものを失って云々みたいな振りがあるのに結局はただの悪人で終わってしまった気がするし、もうちょっとこのキャラに奥行きが欲しかった。

 そういう意味ではラスボスのドルマムゥも強いんだか弱いんだかハッキリしろという感じで、ストレンジの暁美ほむら的執念に「もうやめてー」となるとか、なんやねん、あんだけ壮大に煽っといてそんなんで負けるんかいという肩透かしムード。あとストレンジは医者だから人は殺せない(殺したくない)という設定なのはわかるけど、最後は結局人(じゃないけど)任せかという感じでカタルシスもなく…。

 ただこの映画、観るべきポイントが全然ないわけではないです。ストレンジがエンシェント・ワンに会ったとき「なんだ、カルトか」とバカにした途端見せられたアストラル界(だっけ?)とか異次元の映像。これ、ぶっちゃけLSDとかやったときのトリップでしょ?

 この映像を観ると、確かに知人が言っていた「IMAX 3Dで観るべき」という意味がわかります。『2001年宇宙の旅』のスターゲートみたいなのもあったり、指から指が生えてきたり(何言ってるかわかんないだろうけど)、とにかくガンギマリンギモッヂイイ!!!みたいな映像が続くんですよ。正直これを30分ぐらい観ていたかったぐらいで。

 トータルとしてはもう20分ぐらい縮められるだろうと思うし、はっきりいって大傑作とは言い難い代物でしたが、ドラッグはやらないけどトリップしてみたいと思ってる人は映画館に行ってみればいいんじゃないでしょうか。できるだけでかいスクリーンで、音響もいいところでね。

Ost: Doctor Strange

Ost: Doctor Strange

 

 

Doctor Strange Official 2017 Square Calendar (Calendar 2017)

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『沈黙‐サイレンス‐』を観た

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17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教(信仰を捨てる事)したとされる高名な宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)を追い、弟子のロドリゴアンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は日本人キチジロー(窪塚洋介)の手引きでマカオから長崎へと潜入する。
日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に驚愕しつつも、その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。それも束の間、幕府の取締りは厳しさを増し、キチジローの裏切りにより遂にロドリゴらも囚われの身に。頑ななロドリゴに対し、長崎奉行の井上筑後守(イッセー尾形)は「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫る。そして次々と犠牲になる人々――。
守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じた事でわかった、強いと疑わなかった自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断とは。(公式サイトより)

 長いです。2時間41分もありますからね。座り心地のいい映画感で観ることをおすすめします。

 原作は遠藤周作の小説です。僕は『海と毒薬』だけ読んだことがあったんですが、簡単に印象を書くと「重いテーマを読みやすい文体で、でも大事な部分は失わず書ききる人」という感じ。今回マーティン・スコセッシが念願の映画化を果たしたということで『沈黙』も読んでみましたが、『海と毒薬』を読んだときと印象は変わりませんでした。てか、普通におもしれーから遠藤周作

 2時間41分もあるだけあって、映画は原作にある要素をほぼ取り込めているのではないかと思います。窪塚洋介がキチジローを演じるというのは少し意外だったんですが、観てみるとこれが違和感全然なし。最初は、モキチ役の塚本晋也さんがキチジローってイメージだったんですが、映画を観たら「これでよかったんだな」と思いました。

 長崎が舞台という設定でありながら、撮影はほとんど台湾で行われているそうです。そのせいか?なんだかロケ地の植物とかがあんまり日本ぽくないなと思ったりもしたんですが、ほぼ違和感ありません。てか、アメリカ人が日本を舞台にした映画作るとありがちな変なところも全然なかったかも。クリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』でさえ玄関がいきなり障子っていう間違いがありましたからね。

 映画を観ていてまず思うのは、スコセッシの映画ってやたら音楽がかかってるイメージなのに、今作についてはほぼ無音なこと。『沈黙』だからなんでしょうか、あまりに重い物語だからなんでしょうか。個人的にはスコセッシの映画は音楽かけすぎ!と思ってたので、これぐらいがいい。悲しいシーンで悲壮な曲が流れたりしません。とにかく音がなくて、全編重苦しい雰囲気です。まさかそんなバカはいないと思いますが、お互いのことを知らないカップルがデートで観に行くにはまったく向いていません。一人で観に行きましょう。

 ハリウッドスターが出ているためか、「アンドリュー・ガーフィールド、お前そこでウェブシューターでなんとかしろよ」とか「リーアム・ニーソン『96時間』だったらこんな奴ら瞬殺やん』とか「アダム・ドライバー、フォース使えよフォース」とかつい思ってしまったんですけど、もちろんこの映画にはウェブシューターもフォースも出てきません。彼らは一貫して“信じる者”という弱者です。

 小説を読んだときにも思ったんですけど、「神様なんかどうせ助けてくれない(てかいねーだろ)のになんでそんなに信じるん?」ひいては「他者のための行為、信念が結果的に他者を傷つけるということについてあなたはどう思うの?」という問いかけを感じるんですよね。後者はキリスト教に限ったことじゃないですよね。最近観た映画だと『アイ・イン・ザ・スカイ』なんかもこういうお話で。

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 いやもっと難しいことなのかもしれないけど僕の頭ではこの程度の理解しかできないのでまあ許してつかあさい。

 そして、小説では「どうなんでしょうね」という問いかけで終わっていたものに、この映画では1つの回答が出されてると思うんですよ。ネタバレなんで言いませんけどね。基本的に原作に忠実だけど、あそこで、このお話を映画化したいと30年近く考えていたスコセッシ個人の“答え”が出る。その答えについてあーだこーだいうとネタバレなんで書きませんが、僕はちょっと感動してしまいました。

 日本人キャストでいうと、通辞を演じた浅野忠信の迫力がすごかったですね。『淵に立つ』でも怖かったですけど、今回も怖いですよ。基本的に浅野さんって「なんかこわそう→あ、いい人→やっぱこええ!」っていう雰囲気なんです。特に彼がロドリゴに迫る(性的な意味ではない)シーンの演技は迫力があるので必見。それからやっぱり塚本晋也さんですかね。『野火』であんなことになって今回もまあ壮絶な役どころで…ドMとしか思えません。ちなみにSABUが出て来るところはちょっと笑いました。唯一気が抜けるところかも。

 実は個人的にスコセッシってそんなに好きな監督ではなくて、『タクシードライバー』も『グッドフェローズ』も『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』も「まあいいんじゃない」って感じだったんですよね。でも今回の、スコセッシ“らしくない”映画『沈黙-サイレンス-』はもしかしたら彼の映画の中で一番好きかも。一般受けするかというと微妙な気はしますが。とにかく観に行く場合はあんまり水分をとりすぎないようにして映画館へ向かうことをすすめます。

『ネオン・デーモン』を観た

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誰もが目を奪われる特別な美しさに恵まれた16歳のジェシーは、トップモデルになる夢を叶えるために、田舎町からロスへと やって来る。すぐに一流デザイナーやカメラマンの心をとらえるジェシーに、激しい嫉妬を抱くライバルたち。ジェシーに仕事を奪われた彼女たちは、常軌を逸した復讐を仕掛け始める。だが、ジェシーの中に眠る壮大な野心もまた、永遠の美のためなら悪魔に魂も売り渡すファッション業界の邪悪な力に染まっていく。(公式サイトより)

 TOHOシネマズ新宿で鑑賞。音がでかくてよかったです。川崎のチネチッタのLIVE ZOUNDも良さそうだから試してみたい。

 ↑にあらすじを引用しましたけど、中盤あたりからぶっちゃけストーリーの整合性とか意味とかどうでもよくなります

 ニコラス・ウィンディング・レフン監督の前作『オンリー・ゴッド』を観てる人ならそこまで驚かないと思います。でも『ドライヴ』だけのイメージで観に行ったら面食らうでしょうね。僕はすでに『オンリー・ゴッド』のカラオケシーンで面食らっていたので、免疫ができていました。ちなみに同作は僕の2014年ベスト10の10位です。

 レフン監督の作品の中ではむしろ『ドライヴ』が異色で、『オンリー・ゴッド』や『ネオン・デーモン』がまさに彼の真骨頂かと。カンヌでも評価が真っ二つに分かれたそうですし、海外でもあまりお客は入ってないようです。確かに、彼の映画は人を選びます。万人受けする作風ではないでしょう。僕の周りでは僕自身を含め好きな人がけっこういるんですけど。みんな変態、あるいはキ○ガイなんですかね。

 ただ、レフン作品を観たことがない、あるいは『ドライヴ』しか観たことがないという人には『ネオン・デーモン』を観てほしいです。ゴア描写は『オンリー・ゴッド』ほどではないし、今回はカラオケもありません(意味がわからない人は『オンリー・ゴッド』観てね)。それで、合わなかったならもう金輪際観なければいいし、好きなら今後もレフン監督に注目してみてはどうでしょう。

 『ネオン・デーモン』は、レフン監督がある朝目覚めたときに自分の嫁はんの顔を見て「なんて美しいんだ。それなのに俺ときたら…」と嫉妬の念に駆られたことがきっかけだそうです。なんだ、ノロケかよ。でも彼の言ってることはわからないでもないですね。僕も「あぁ、美少女っていいな。美少女に生まれ変わってみたいな」と思ったことがありますし。それに、レフン監督は「男というものは誰しも、自分の中に10代の女の子を宿しているものなんだ」とも言っていて、これもまあなんとなくわかる。でもこの映画の中では、そんな憧れや崇拝の対象でもある美少女たちのどす黒い一面ががっつりと切り取られていきます。

 そもそもねえ、エル・ファニング演じる主人公のジェシーが「私は可愛いからそれで一旗あげようと思った」って堂々と言うんですよ(字幕うろ覚え)。クリスティナ・ヘンドリックス(『ドライヴ』で頭ぶっ飛ばされてた人。ムチムチ)演じるモデル事務所の社長?の前ではなんか自信なさげなんだけど、ちょっと童貞っぽいフォトグラファー志望の男の子には「私は可愛いから」とか堂々と言うんですよね。向こうではこれが普通なんかな?とも思ったんですけども、この時点でこいつただのウブなねーちゃんじゃねえなと。というかそもそも「デルモ(死語)になって一旗あげる」って、16歳でLAに出てくる時点でもう相当なタマですよこれは。

 エル・ファニングはあんまりスーパーモデルって顔つきじゃないんですけど、あえて彼女を選んだのは、劇中にも出てきますけど人工的な美貌ばかりが追求される現状へのアンチなのかもしれませんね。でもねえ、ファッションデザイナーのおっさんがジェシーを見たときだけ顔が「はぁっ!」ていう感じで変わるところはちょっとわかりやすすぎで笑いそうになりましたよ。わざとやってんのかなってぐらい。「ダイヤの原石見つけたで」っていう、モロな顔ですからね。

 ジェシーが泊まってるモーテルの管理人?をキアヌ・リーヴスが演じてるんですけど、こいつがもうドのつく嫌なやつで最悪、いや最高でした。そしてジェシーがこのモーテルで“あるもの”を目撃するところから、この映画のキ○ガイぶりは加速していきます。『オンリー・ゴッド』もそうだったけど、現実と悪夢の境目が曖昧になっていくというか、映画全体のおとぎ話感が増していく。“あるもの”はジェシーの内面を具現化したものなのかもしれません。

 で、ジェシーは、『マッドマックス:怒りのデス・ロード』にも出てたアビー・リー演じるサラを蹴落としてランウェイを歩くことになります。ここでエル・ファニングが見せるびみょ〜〜〜〜〜なドヤ顔。これがいいですね。ほんと、やりすぎない絶妙なドヤ顔なんですよ。しかしその後、予告編にも出てきますが、仕事取られて激おこなサラがトイレの鏡をぶっ壊し、結果的にその破片でジェシーは手を切ってしまいます。つかここ、観たときはサラにやられたのかと思ったけど。

 ちなみに鏡はこの作品の中でものすごく多く出てきます。あまりにも鏡が多く出てくるので、途中からこの物語は鏡の向こう側で起きている幻想なんじゃないかと思ってしまうぐらい。ジェシーたちはモデルですから、鏡と向かい合うことが多いわけですよね。でも人間って、そんなふうに自分の姿をずっと見つめ続けているといつしかおかしくなってしまうんじゃないでしょうか。美しくても醜くても、人っていうのはあまり自分自身というものを視覚的に認識しすぎないほうがいいんじゃないかと思うんですよ。今思いついたんですけどね、適当に。たまに、鏡とか写真を見ていると「あぁ、自分ってこんな顔してるのか。不思議だな」と思うことはありませんか? たまに見るぐらいだったら「不思議だな」で済むものも、あまり行き過ぎると狂ってしまうんじゃないか、僕はそう感じてしまうんですよね。

 映画の後半では『ネクロマンティック』的な展開もありますしカニバリズムも出てくるわで、もう変態にとってはいたれりつくせりみたいな状況になってくるんですけど、撮影は全体的にとても美しいです。レフンが色盲であることにも起因するヴィヴィッドな色調。『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』でもそうですけど、今回もすごいです。でも今回は、スタジオでジェシーが初めて撮ってもらうシーンで、真っ白なバックも登場するんですよね。ここはちょっと新鮮でした。ヴィヴィッドなシーンについてはダリオ・アルジェントの『サスペリア』との類似を指摘する人もTwitterにいたりして、なるほどなと思いました。さっき観たんですけどね『サスペリア』。

 全然意味わからんわ、とか雰囲気映画、とけなす人がいるのもわからないではないんですけど、今回の作品も僕は好きです。正直に言えば、ラストはもっとイカれててもいいんじゃないかな、まだまだいけるんじゃないかと思わなかったこともないですが。観ようと思っている人に伝えたいことは、あんまり頭で理解しようとするなということ。ただ感じろ、ということです。僕は開始30分ぐらいで「物語のつじつまはどうでもいいや」と思いました。

 ちなみにレフンは今、日本を舞台にした映画の構想を練っているらしくて、あるヤクザの親分を暗殺することになった口の利けない男が主人公らしいです。タイトルは「The Avenging Silence」だそう。『オンリー・ゴッド』以降興収的にはコケてるので先行きが心配ですが、ぜひ実現させてほしいですね。